第七十四話 都の東でその三
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そのうえでだ。兄にあらためて述べたのである。
「あれだけの悪事を繰り返した者なぞ傍に置いてはなりませぬ」
「何時寝首をかかれるかわかったものではありません」
信行もまた兄に言う。
「ですから。くれぐれもです」
「このことだけはです」
「会ってもいかぬか」
「はい、それ以前の問題かと」
「あの者につきましては」
弟達もかなり強く兄に話す。
「他の者ならいざ知らずあの者だけは」
「どうしても」
「それにです」
信行は切実な顔でこのことをだ。信長に話したのだった。
「兄上は先の公方様と懇意でしたが」
「一度しか御会いしておらぬがな」
「ですがそれでもです」
懇意だったことは事実だったというのである。
そしてこのことからだ。兄にさらに強く言うのだった。
「その先の公方様を攻め殺したのです。言うならば仇です」
「それはわしもわかっておるわ」
「では何故そう言われるのですか」
「そうです。それでは道理が通りません」
信広はここでも次兄に同調して言う。
「仇ならば必ずです」
「討ち取らねばなりません」
「義昭様もそれを望まれているではありませんか」
「それならば余計に」
「しかしじゃ」
だがそれでもだとだ。信長も引かない。それで弟達に返すのである。
「一度会ってからでもそれは遅くあるまい」
「相手は天下の奸賊ですが」
「それでもですか」
「一度会ってからじゃ」
全てはそれからだというのだ。
「会わぬうちに決めるのもよくない」
「先入観はよくないと仰いますか」
「それ故にですか」
「あの者に対しても」
「まずは会われると」
「それからでも遅くはあるまい」
あくまで信長はこう言う。どちらかといえば穏やかにだ。
「そう思う。わしはな」
「さすればですか。やはり」
「あの男ともでございますか」
「うむ、会えれば会う」
そうするというのだった。
「何度も言っておるがのう」
「わかりました」
信長の決意が固いのを見てだ。信行はまずは嘆息してからだ。
そのうえでだ。こう兄に述べたのだった。
だがすぐにだ。彼はこうも告げたのである。
「しかしです。その場で若しあの者が少しでも妙なものを見せればです」
「その時はじゃな」
「それがしが斬ります」
「それがしもです」
信行だけでなく信広も言ってきた。
「このことはくれぐれもです」
「宜しくお願いします」
「厳しいのう、それはまた」
信長はその彼等に苦笑いしつつ述べた。
「会うのも駄目か」
「相手が相手ですから」
「とてもです」
やはりこう言う信行と信広だった。
こうした話をしてだった。そうしてだった。
彼等は何としても兄に松永と会うことを許さなかった。そしてそれはだ。
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