第七話 位牌その九
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「なっ・・・・・・」
「あの姿は」
「何と・・・・・・」
信長の縁者や家臣以外の者達が驚きを隠せなかった。
何とだ。信長は茶筅髷に赤い紐、それに帯の代わりに注連縄である。墓も穿かず粗末なはきものである。そして腰には長柄の大刀と脇差である。
「あれで葬儀の姿か」
「しかも喪主だぞ」
「あれで」
信長の周りにいる者達が驚きを隠せない。そうしてであった。
信長はその姿で仏前につかつかと進み出てだ。
位牌を睨みつけそのうえで抹香を掴んでだ。位牌に投げ付けたのであった。
「また何と」
「これが弾正の嫡子か」
「噂以上じゃ」
「うつけにも程があるぞ」
誰もが驚いているその中でだ。
信長はあっという間に葬儀の場を去ったのであった。
後に残った信友や信清といった面々はだ。こぞって信長を愚弄した。
「やれやれ、これではじゃ」
「弾正も気の毒な」
「うつけと聞いていたがそれ以上じゃ」
「全くよのう」
信長を完全に侮った。しかしであった。
信行達は全く動じない。そして皆が愚弄するその中で僅かな者達だけがだ。威儀を正し何も言わなかった。そうしてであった。
「終わったな」
「はい」
柴田が信行の言葉に頷いたのだった。
「これで」
「よし、では帰るとしよう」
「それでは」
これだけで終わりであった。信行達は去った。しかし平手はその中でだ。落胆しきった顔になっていた。
「最早。これでは」
「どうされました、平手殿」
帰る途中でその落胆しきった彼を見てだ。帰蝶が声をかけたのだ。彼女は男が着る青紫の上着に青い袴という格好である。
「殿のことですか」
「何じゃ、あれは」
葬儀のことを言っているのは言うまでもない。
「あれでは。最早」
「やはりそのことですか」
「しかし何じゃ。誰も驚いてはおらんではないか」
平手はここで周りを見た。見れば誰も驚いてはいない。平然とさえしている。
「あの猿ですらもじゃ」
「あれは木下殿ですね」
「最近侍大将になったな。あの猿も平気な顔をしているのう」
「わかっているからでしょう」
帰蝶はここでこう言った。
「だからなのでしょう」
「わかっていると」
「殿がです」
「馬鹿な。あれでは最早」
平手は首を横に振ってだ。暗澹たる顔で述べた。
「何を申し上げても無駄じゃ。かくなる上は」
「そう思われるのでしたら」
しかし帰蝶はまだ彼に言う。
「一週間後の朝ですが」
「一週間後の朝ですとな」
「城に行かれてはどうでしょうか」
こう彼に言うのである。
「翌朝にです」
「何かあるというのですか」
「はい、その時に考えられてはどうでしょうか」
これが帰蝶の言葉である。
「それでどうでしょうか」
「そうじゃな。わしも
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