第七十三話 近江掌握その六
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周りの家臣達を見回した。あえてゆっくりとだ。
それからだ。その家臣達に問うたのである。
「どう思うか」
「降伏すべきか否か」
「そのことですな」
「御主達はどう思う」
あらためて彼等に問う。
「戦うべきか。それとも」
「降伏か」
「そのどちらかですか」
「そうじゃ。どう思う」
まただ。家臣達に問うた。主の言葉を受けてだ。
家臣の一人がだ。項垂れた顔で述べた。
「ここはもう仕方ありませぬ」
「降伏か」
「はい、それしかありませぬ」
これがこの家臣の話だった。頭は項垂れ顔は暗い。
そして他の家臣達もだ。誰もが項垂れて言うのだった。
「仕方ありませぬ」
「命があってこそです」
「また戦ができます」
「ここは降伏を受けるべきです」
戦を言う者はいなかった。とてもだった。
その話を聞き終えてだ。六角もだ。
目を硬く閉じた。それからだ。
その目を開いてからだ。そして言ったのだった。
「ではじゃ」
「降伏ですか」
「そうされますか」
「それしかあるまい」
六角は彼にとって苦渋の決断を下した。そうしてだった。
彼は織田の使者に対して降伏を告げた。それを聞いてだ。信長は言うのだった。
「ではこれでよい」
「して六角殿はどう為されますか」
「降伏したのじゃ。命は取らぬ」
こう傍らにいる信行に答えたのである。
「城を明け渡し近江を去る様に告げる」
「ですがそれでは」
信行はそれを聞いてだ。怪訝な顔で兄に問うたのだった。
「六角殿は伊賀も領地にしておりますので」
「そこからだというのじゃな」
「はい、また兵を挙げますが」
「そうじゃろうな。しかしじゃ」
「それでもよいのですか」
「それはそれでやり方がある」
信長はこれまでは城を見ていた。彼はまだ本陣にいるのだ。
だがここで弟に顔を向けてだ。確かな顔で答えたのである。
「既に伊賀の国人達にも文は送っておる」
「近江だけではありませんでしたか」
「打てる手は全て打っておく」
これが信長のやり方だ。それは今回も変わっていない。
「それ故にじゃ。それに六角が伊賀に落ち延びそこからまた兵を挙げるとなるとじゃ」
「少し時間がかかりますか」
「その間に充分備えられる」
このことも頭に入れて述べる信長だった。
「だからじゃ。それはそれでよい」
「そしてやがては伊賀も」
「うむ、我が領地とする」
実際にそうするともだ。信長は話した。
「あの国もじゃ」
「そうですか。伊賀もですか」
「あの国は伊賀者に甲賀者もおる」
忍の者達だ。彼等のことを念頭に置いての言葉だった。
「伊賀者は竹千代、甲賀者はわしのところに随分おるがな」
「久助のですな」
「うむ、しかし妙じゃな」
ここでだ
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