第七十一話 羽柴秀吉その五
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主である彼からの話と聞いてだ。二人もだ。
納得する声でだ。こう答えたのである。
「では我等もじゃ」
「すぐに持ち場に戻る」
「わかりました。ではお願いします」
こうしてだ。浅井、徳川の軍を加えた織田軍は近江に入った。そしてそこから南下してだ。近江のさらに南、六角義賢の治める場所に入ったのである。
このことはすぐに観音寺城にも伝わった。そのことをだ。
厳しい顔の初老の男が聞いていた。その彼が己の前に控える者達に言っていた。
この男こそ六角義賢だ。他ならぬ六角家の主だ。
その彼がだ。織田家六万の兵が来ると聞いてだ。こう言ったのである。
「六万か」
「はい、左様です」
「その六万が我が家の領土に入ってきました」
「そして国人達を次々と懐柔してきてもいます」
「そのうえでこの観音寺の城に向かってきています」
「我等にもです」
「降伏を勧めてきておるか」
家臣達の話をだ。六角はこう返した。
そのうえでだ。顔と同じく厳しい声でだ。こう言ったのである。
「このわしに」
「左様です。さすれば所領も安堵すると」
「そして次の将軍に義昭様を認めよと言っています」
「その様にです」
「馬鹿を言え」
六角は信長のその勧告をだ。一言で言い捨てた。
そしてそのうえでだ。彼はこう家臣達に述べたのである。
「公方様はもう決まっておるではないか」
「はい、義栄様です」
「あの方が都に入られます」
「そうじゃ。義昭様には残念じゃが」
将軍家の者への敬意は忘れない。この六角はそういう男だ。
その彼がだ。こう言ったのである。
「やはりこの度は義栄様の方が公方様に相応しい方じゃからな」
「はい、確かにです」
「あの方は誠実で真面目な方です」
「ですから」
「わしはあの方が将軍になられればよいと思う」
六角はその人物を見て決めたのである。それに基きだ。8
彼はだ。義昭についてはこう述べたのである。
「あの方は陰謀を好まれる」
「そして器量が小さいと」
「それ故にですね」
「うむ、あの方は支持できぬ」
義昭の人物も見たのだ。そのうえで決めたのだ。
それでだ。その義昭を担ぐ信長についても言うのだった。
「織田信長。どういうつもりじゃ」
「そうした方を将軍に担ぎ出すことですね」
「そのことについて」
「確かに幕府の力は弱くなった」
六角も認めることだった。しかし信長は将軍を神輿と見ていた。だが六角は将軍を天下人と見ていた。この齟齬にはだ。六角は気付かないまま考えていた。
それでだ。彼は己の家臣達に述べたのである。
「しかしそれでもじゃ」
「はい、幕府に忠義を尽くさずして何になりましょう」
「殿のお考えは正しいです」
「ここは何としても義昭様を将軍にする訳にはい
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