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久遠の神話
第三十二話 相互理解その八
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「俺の望みを適える為に」
「ですか」
「今もだ。その力を手に入れる為に」
 怪物と闘う。そしてだというのだ。
 こう言ってだ。その手に持っている剣を前に振った。すると。
 その剣身から無数の木の葉が起こりだ。舞いだした。その木の葉の陣は怪物を覆った。
 だがその木の葉達の周りにだ。白く細い糸が生じ。
 立体的な巣になった。木の葉を柱にしてだ。糸は怪物を中心に陣を組んだのだ。
 その陣を見てだ。聡美は広瀬に言った。
「蜘蛛の糸ですが」
「触れれば終わりだな」
「はい、捕らえられそうして」
「動けなくなる」
「ですから。あの中には入られません」
 蜘蛛の糸の陣、その中にはだというのだ。陣は木の葉の動きを止めさせてそのうえでだ。上下左右に複雑に絡み合う陣を組んでしまっていた。
 蜘蛛はその中にいる。一見動けはしない。しかしだ。
 広瀬は蜘蛛のその無気味な複眼を見つつだ。こう言った。
「蜘蛛の巣の中で動けるのは」
「蜘蛛だけですね」
「己の巣の中で動けない生き物はいない」
 蜘蛛もまた然りだった。
「それ故にな」
「あの蜘蛛もまた」
「巣の中で自由に動く。例えば」
 言ったすぐ傍からだ。蜘蛛の身体から。
 無数の小さな蜘蛛が出て来て巣の中を回りだした。そしてそのそれぞれの口から。
 無数の糸を出してきた。それを広瀬に向けて放つ。
 弓矢の様なそれを避けながらだ。広瀬は左右に跳びつつ闘いを見守る聡美に言った。
「こうしたことをしてくる」
「読んでおられたのですか、今の攻撃も」
「蜘蛛にも子供がいる」
 背負っている蜘蛛もいるのだ。その子供達を。
「種類によってだがな」
「だからこそ読んでおられたというのですか」
「ある程度だがな。そしてだ」
「はい、その糸に触れれば」
「終わりだ」 
 絡め取られる。そうなるというのだ。
「少しでも捕まえられればだ」
「そうです。ですから」
「この闘いはワンオブゼムだ」 
 無傷で勝つか、敗れて死ぬか。どちらかしかないというのだ。
「そうした闘いだ」
「あの、本当に生きるか死ぬかですが」
「極論すれば全ての闘いがそうだ」
「では」
「勝てばいいだけだ。簡単なことだ」
 蝶の、いや木の葉の様にひらひらと舞いながらだ。広瀬は子蜘蛛達の糸をかわしていく。少しでも当たれば終わりだが彼は冷静さを失っていなかった。
 そしてそのうえでだった。彼は。
 その剣を縦横無尽に振った。すると。
 鋭い、短剣を思わせる木の葉が無数に彼の前に出た。その木の葉達がだ。
 巣に向けて一直線に向かい。それでだ。
 攻撃をしてくる子蜘蛛達に糸まで断ち切っていく。流星の様に一直線に飛び。
 それを見てだ。聡美は言った。
「舞うものは止められてもですか」

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