第六十九話 岐阜での会見その十
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久政はだ。こんなことを話したのだった。
「しかし浅井の家は残るか」
「少なくとも。それがしは浅井の家を守ってみせます」
「そうする為にもか」
「それでは駄目でしょうか」
「言った筈じゃ。今の浅井の主は御主じゃ」
また長政に任せるというのだった。
「だからじゃ。よい」
「左様ですか」
「では織田殿と共に戦え」
今の久政の言葉はこうしたものだった。
「そして浅井の家を守れ。よいな」
「畏まりました」
「してじゃ。織田から来た嫁御じゃが」
「市ですな」
「また随分と大きいのう」
市の美貌よりもだ。それを話したのだ。
「あれだけでかいおなごもそうはおらんな」
「いえ、妹は」
「ああ、あれがおったか」
久政の娘であり長政のすぐ下の妹だ。この妹もかなりの大きさなのだ。
「あれもかなりじゃがな」
「はい、大きいです」
「御主の嫁御と同じだけはあるか」
「そう見えますが」
「大きいおなごもおることにはおる」
久政はこの考えに至ったのである。
「そういうことじゃな」
「そうかと」
「そういえば織田信長殿も中々背が高いというが」
「では市は義兄上に似たと」
「顔もよいがそこも似たのか」
背の次に顔だった。久政はそこも話するのだった。
「織田家というのは容姿に恵まれておるのう」
「左様ですな。ではそれがしと市の子も」
「顔のよい者達が生まれるであろうな」
「それは何よりです」
「後は充分に育てよ」
顔立ちや背がよいのに加えてだ。さらにだというのだ。
「して浅井の家の誇りとせよ」
「畏まりました」
「浅井の家は小さい」
久政は苦い顔で言う。
「その浅井が生き残る為にはじゃ」
「かなりの覚悟と誇りが必要ですか」
「御主は媚びぬな」
「そうしたことは好きではありません」
毅然としてだ。長政はそれはその通りだと答える。
「人にとって不要なものであると考えています」
「そうじゃな。御主らしい考えじゃ」
「ですから。そうしたものは」
「それでよい、卑屈は何にもならぬ」
久政はようやく今になりわかったといった感じだった。
そしてそのうえでだ。我が子に対して述べた。
「織田殿に対してもじゃ」
「はい、あくまで毅然と」
こう話してだった。長政もまた戦の用意に入る。近江の彼等もまた時代の大きなうねりの中に置かれようとしていた。彼等の気付かないうちに。
第六十九話 完
2011・12・5
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