第七話 位牌その四
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「あの者は失うな」
「決してですか」
「あの者は魏徴よ」
「それですか」
「そうよ、それよ」
こう話すのであった。
「これでわかるな」
「如何にも」
「わかっていればよい」
信秀は今の我が子の返答にも満足した顔で頷いたのだった。
「あの者はそなたにとって大事ぞ」
「まさに鏡ですな」
「左様、魏徴がそうだったようにじゃ」
魏徴とは唐の太宗の臣である。主に対する諌言で有名である。それにより太宗を名君としていた人物だ。詩人としても名高い人物だ。
「必要なのじゃ」
「わしだけでなく家臣全体にですか」
「だからだ。失うな」
このことを強く言う。
「あれがいるのといないのとで全く違うぞ」
「左様ですな。それではです」
「うむ」
「爺はこれからもわしの傍で筆頭家老として働いてもらいましょう」
「そうせよ。わしがおらずともあ奴がいる」
まずは平手であった。
「そして他の者もな。その者達を使えば尾張なぞ手に入れるのは容易い」
「左様ですな。尾張は」
「すぐに手に入れよ」
信秀は告げた。
「よいな」
「はい、それでは尾張は」
「そしてそれからもだ」
信秀もまた。今は尾張より先も見ていた。そのうえで信長と話をしていた。
「よいな」
「天下を」
こう話してであった。今は別れる父子であった。信長はその父子の話の後もうつけでありそして城下も田畑も治めていた。その中で、であった。
「殿、大変です」
「どうした、久助」
丁度書を読んでいた。そこに飛んで入って来た滝川に応えるのだった。滝川の動きは忍らしく音もなくかつ尋常な素早さではなかった。
「何があった」
「大殿が亡くなられました」
「何っ、父上がか」
「はい」
そうであると。信長に対して述べたのであった。
「その通りです」
「そうか。それであの時」
信長はその話を聞いてだ。先日の父との話を思い出していた。
そのうえでだ。滝川に対して問い返した。
「それでだが」
「何でございましょうか」
「葬儀はすぐだな」
問うたのはこのことだった。
「そうだな」
「はい、そうです」
滝川はまさにその通りだと述べた。
「既にその用意に取り掛かっております」
「わかった。それではだ」
「すぐに古渡に向かわれるのですね」
「いや、まずはそなた等が行け」
信長はここでこう滝川に告げた。
「濃と勘十郎もじゃ。無論爺もじゃ」
「殿はどうされるのですか?」
「無論わしも行く」
信長は行くとは答えた。
「だが」
「だが?」
「後でじゃ。まあ見ておれ」
「何かお考えがあるのですか」
「さてな。それではな」
「はい、それでは」
滝川はここでは多くを問わなかった。そうしてであった。
今はそのうえで
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