第三十一話 広瀬の秘密その十
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「うちの牧場に来てよ」
「だから考えておくよ」
「ううん、またそう言うけれど」
「とにかく。考えておくよ」
またこう言う広瀬だった。
「そのことはね」
「男も女も度胸よ」
由乃の今度の言葉は強いものだった。
「前に出ないと駄目よ」
「前に出てこそ」
「そう。何でもなるのよ」
由乃は言った。
「まず前に出て」
「前に出て」
「広瀬君って積極的な方じゃなかった?」
「いや、それは」
「違うの?」
「何ていうかな」
いささか難しい顔になってだ。広瀬は今はこう言った。
「時と場合によるかな」
「じゃあ今は?」
「もう少し」
まただ。彼はこう言ったのだった。
「様子を見たいかな」
「民主党政権みたいなこと言うわね」
「あれはただの無能だからね」
それも尋常ではない。尚民主党の支持基盤は労働組合やマスコミだ。どちらも社会主義の残照に今でもどっぷりと浸かって離れていない。
「俺とはまた違うよ」
「まあ。あの人達とは確かに違うわね」
「絶対に決断は下すよ」
それはだ。絶対にだというのだ。
「少し待ってくれるかな」
「わかったわ。けれどね」
「絶対にだね」
「うん、決断は下してね」
このことはだ。由乃は広瀬に念を押した。
「お願いよ」
「うん」
広瀬は前を向いたまま由乃のその言葉に頷いた。確かに前は向いていた。
だがそれでも浮かない顔だった。その顔での返事だった。
二人は一時間程共に馬に乗っていた。それが終わってからだ。
広瀬は由乃を農学部の牧場に戻した。そのうえで彼も馬を降りてこう言った。
「また後でね」
「御免なさい、今日はね」
「そっちの都合があるんだ」
「お家に早く帰ってね」
そうしてだというのだ。
「鶏の世話しないといけないから」
「鶏なんだ」
「ちょっとね。鶏小屋が少し古くなってきたから」
それでだというのだ。
「修理しないといけないのよ」
「鶏の世話も大変だね」
「結構ね。うちの鶏はブロイラーと違って」
どうかというのだ。由乃の家の鶏は。
「お外に出して運動させたり。ちゃんとした小屋に入れてね」
「しっかりと育ててるんだね」
「名古屋コーチンみたいにね」
ああした育て方をしているというのだ。
「手入れして育てているのよ」
「そうした鶏の方が美味しい」
「ええ、そうよ」
やはり鶏も運動させた方が味がいいのだ。これは紛れもない事実だった。
「だから、そうしてるのよ」
「成程ね」
「だから。その小屋をちゃんとしないといけないから」
それ故にだというのだ。
「今日は御免ね」
「いいさ。それじゃあね」
「またね」
「また明日ね」
こう言葉を交えさせてだ。そのうえでだ。
広瀬は由乃と別れ
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