真夜中の遭遇。紅い曳光
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揺れる音と葉が飛び散る音を頼りにその位置を探る。
「……」
ヴォルフは役立たずとなった編み笠の紐を解いて放り捨てた。金糸のような髪が風に煽られて流れた。
刀を鞘に収めて自身の五感に集中する。針が布を刺す音すらも聞き逃さないとばかりに。
不意に何かを強く叩く音が耳に入った。九時の方向の上方からだ。
「っ!?」
しかし、飛来したのは無数の木の枝だ。それでも一つ一つの体積が人の半身ほどと大きい。直撃を被ればダメージは負うし、下手をすれば体に突き刺さる無視出来ない物だ。何より服に引っ掛かって邪魔になるのが一番の問題だ。
続いて正面である十二時方向から大きな破砕音が響く。根元近くから切断された樹木がヴォルフ目掛けて倒壊してきた。樹齢百年単位の大きな木で幅はヴォルフ五人分よりも太い。下敷きになれば人間など潰れてしまう。
波状攻撃だ。無数の木の枝で行動範囲の制限を狙い、倒壊する木での直接打撃は木の枝を確実に当てる為の物だ。
「くっ!」
倒木に潰される前にヴォルフは倒れてくる木の範囲から下がり、身に着けていた外套を宙へ放って落ちてくる木の枝を少しでも減らす。
「ギィアアアアアア!」
その直後、獰猛な咆哮と共に、ヴォルフの真上にナルガクルガが姿を現した。ヴォルフは尾を引く紅い一対の光を宿した飛竜が、その右翼の刃を振りかぶって急降下してくるのを視界に捉えた。
全ては、この一撃までの布石に過ぎなかった。
無数の木の枝は行動の抑制。
倒れてくる大木は回避する方向をさらに二分割する為。
そして本命の一撃が放たれた。
妖しく輝く真紅の光と共に、月光を反射して黒光りする刃がヴォルフを切り裂かんと風を切って迫る。
それはまさに森の死神と恐れられる者の所業だ。獲物の身体を容易に切り裂き命を奪い、その血で雨を降らせるもの。
ナルガクルガの翼が鋭い金属音を発して何かを切り裂いたことを周囲に伝える。その威力は大木が地面に倒れ伏す音など容易に掻き消してしまうほどで、硬い土の地面を大きく抉り取っており、その標的となった人間ごと大地を切り裂き、周囲の塵ごとを宙へと撒き散らしたかに見えた。
だが、ナルガクルガの刃はヴォルフを捕らえてはいなかった。
直前に抜刀してナルガクルガの刃と自身の刀を交差させて、軌道を僅かに逸らす事で受け流したのだ。
それを見て、続けざまに放たれるナルガクルガの追撃は、無数の棘状の鱗が逆立って乱立し純粋な凶器と化した尾による薙ぎ払いだ。
「逆月、祖は血を注ぎし杯なり」
ヴォルフはそれを自身を旋回させるように跳んで躱し、尾と自分が交差する際にその刃を振るった。
月光を反射して描かれたその軌道は美しい弧を描き、刃によって描かれた弧は上半分を覆われた三日月……即ち逆月だった。
迸った血飛沫が宙を舞
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