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人狼と雷狼竜
真夜中の遭遇。紅い曳光
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ってから落ちる様は、まさに逆月によって描かれた杯に注がれていくような光景だった。
「ギェアアアアアン!」
 尾を深々と切り裂かれたナルガクルガが苦悶の叫びを上げて地面に倒れ伏す。
 尾はまだ切断されてはいなかったが、切り口からは夥しい量の血が流れ落ちている。
 着地したヴォルフは追い討ちを放つ事無く、油断無く刀を構えてナルガクルガを見ている。
 ややあってナルガクルガが起き上がった。ヴォルフが追撃を放ってこない事を理解したのだ。唸り声を上げながらヴォルフを睨むのは不意打ちに掛からなかった事に対する苛立ちゆえか……。
 再び仕切り直しとなり、対峙する双方。疲労が見えてきたヴォルフと手傷を負ったナルガクルガ。果たして不利なのはどちらか……。





「ヴォル君……あれ?」
 固唾を飲んで双方の戦いを見ていた神無だが、周囲の景色に違和感を覚えて声を漏らした。
「どうしたの神無?」
 同じく、目の前の戦いに目を逸らせない梓が神無に話しかける。
「何か、変じゃない?」
「変って何が? あのハンターの事? それともナルガクルガ?」
「違うよ。何か、周りの雰囲気というか風景というか……」
「風景?」
 神無の言葉に反応したのは椿だ。彼女は周囲を(せわ)しなく見回し……
「わぁ〜綺麗ぃ〜」
 と、深刻な空気をぶち壊しにするような呑気な声を上げた。
「何がよ椿?」
 加勢に出ても足を引っ張る危機感を覚え、かといってヴォルフを置いて帰ることも出来ずに苛立っていた梓はついつい声を荒げてしまう。
「ホラ。雷光虫が沢山」
 椿はそう言ってウットリと周囲を見渡している。
 彼女の言葉通り、無数の雷光虫が木々に、草むらに、花に、数える事を放棄したくなる程の数が集まっていた。
 雷光虫とは、文字通り光る虫である。体内で電気を起こす性質を持ち、集合して大きな一個の電球となったそれは稀に人間に襲い掛かることがあるという。絶縁体の嘴を持つガーグァが天敵とされる。
 それが何の前兆も無く大量に出現した。森の景色を一変させるほどの数だ。
「……嫌な予感がする」
 梓はその光景に目を奪われるどころか、背筋に寒気が走るほどの不吉な予感を覚えていた。





 

 不意にナルガクルガが動きを止めて周囲を大きく見渡し始めた。その瞳は周りの景色……というより、無数の雷光虫を確認しているようだった。
「ギッ!」
 ナルガクルガが小さく声を上げた。
 その直後だった。
 明滅する光を発しながら静止するか浮遊していた雷光虫が一斉に飛び上がった。
 風のように舞う無数の雷光虫……その光景は幻想的で、神々しかった。
「……」
 ヴォルフはその光景をナルガクルガへの警戒を弱めずに見ていた。
 こんな光景は初めてだった
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