第六十八話 足利義昭その十
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「貧しい中でそうして下さり書も多く与えてくれました」
「書まで、ですか」
「師も紹介して頂き」
彼とて一人では何もできない。師がいてこそだった。
そしてその師につく金もだ。どうしていたかというと。
「母上は身を粉にして機を織り絹を売られ」
「そうして金を作られてですか」
「それがしを育ててくれたのです」
「左様でござったか。明智殿の御母堂はそこまでされたのですか」
「孟母の如きです」
あの三遷の話で知られる賢母の名も出た。
「まさにです」
「ではその御母堂は」
「はい、今も共に暮らしています」
そうしているというのだ。
「それがしにとっては娘達と共にかけがえのない」
「そうした方なのですな」
「左様です。母上あってのそれがしです」
前を見てだ。明智は澄んだ声で話した。
「まことにそう思います」
「では明智殿は御母上は何があってもですな」
「御護りします、必ず」
「よいことです。そういえば」
「そういえばとは」
「明智殿の御息女ですが」
細川は話を変えてきた。明智の母から彼の娘へとだ。
「何人かおられますが」
「娘達が何か」
「たま殿とおっしゃいましたか」
この名前をだ。細川は出してきたのだ。
そのうえでだ。こう明智に問うたのである。
「あの方の御相手はもう決まっておりますか」
「いえ、それが」
「そうではないのですか」
「何処かにいい相手がいればと思っています」
婚姻はまだ決まっていないというのだ。
「誰かが」
「左様ですか」
それを聞いてだ。細川はだ。
少し考える顔になりだ。こう述べたのだった。
「では若しもですが」
「若しもとは」
「たま殿にです」
「細川殿のご子息のですか」
「あれと一緒にするというのは」
「はい、私は構いません」
明智の方はだ。それでいいというのだった。
だがそれと共にだ。彼はこう言うのだった。
「ですが。妻が何と言うか」
「奥方様がですか」
「一度あれと話してみます」
「そのうえで、ですね」
「それで宜しいでしょうか」
「はい、ではその様に」
細川も笑ってだ。明智に応える。そうした話をしたうえでだ。
あらためてだ。彼は明智にこう言ったのである。
「そうしたこともまずはですな」
「そうです。義昭様に将軍になって頂いてからです」
「ただ。それからですが」
「義昭様がですね」
「果たして静かにしておられるのか」
それが問題だというのだ。
「義昭様はどうも」
「中々誇り高く」
「そして妙に策を好まれます」
それが義昭だとだ。二人はよく知っていた。
それでだ。細川は難しい顔になって言うのだった。
「何とか静かにして頂きたいですが」
「果たしてそれはどうなるか」
「それ
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