第六十八話 足利義昭その二
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彼はだ。こう細川と明智に対して言うのだった。
「ではよい。やはりここはじゃ」
「はい、美濃にですね」
「そして織田殿のところに」
「行くぞ。織田信長といえばうつけと名高いがじゃ」
その話は義昭も聞いていた。しかしその評判も今はだった。
「尾張だけでなく伊勢や美濃まで手に入れた。只のうつけではあるまい」
「それどころかです」
明智がここで言う。
「あの方はどうやら天下の傑物かと」
「武田や上杉と同じ様にか」
「器はひけを取らぬでしょう」
戦国の世に名を馳せている彼等に匹敵するというのだ。
「それだけの方かと」
「ふむ。尾張の蛟龍じゃったな」
この通り名のことも知っている義昭だった。
「その名だけのことはあるというのじゃな」
「しかも尾張や美濃といった五国を押さえその兵はです」
「六万はあるそうじゃな」
「左様です」
「六万。多いのう」
その兵の数に義昭は素直に喜んだ。しかし明智はだ。
ここでだ。その六万の兵についてこう話すのだった。
「今六万の兵を動かせるのは織田殿だけですが」
「うむ。それに何かあるのか」
「織田殿の兵は弱いです」
まずこのことについて言及したのである。
「武田殿や上杉殿の兵と比べると話にもなりませぬ」
「そこまで弱いのか」
義昭は明智のその話に驚きを各せなかった。それで問い返したのである。
「織田の兵は」
「はい、まことに」
「三好や北条の兵も弱いと聞くが」
「どちらも。それに毛利もです」
そうした家の兵達もだというのだ。
「弱いですが織田殿の兵は少なくとも武田殿や上杉殿には勝てませぬ」
「ううむ、よくそれであそこまで大きくなれたものじゃ」
「兵の弱さ以上のものがあったからこそです」
「それでか」
「はい、それが軍略です」
「御主がいつも言っているそれじゃな」
「例え兵が弱くともです」
例えそうであってもだと話す明智だった。
「軍略が確かならばです」
「勝てるのじゃな」
「だからこそ織田殿はあそこまで大きくなれたのです」
「おお、わかったぞ」
ここまで聞いてだ。義昭も大いに納得した顔になりだ。
そのうえでだ。こうその明智に言うのだった。
「それもあってじゃな。織田を頼るというのじゃな」
「兵の弱さは大した問題ではありませんので」
「そうじゃな。勝てればどうということはないな」
「そうです。それではです」
「すぐに美濃に行こうぞ」
義昭は意気揚々として岐阜に赴く。無論明智達も同行する。その一行が越前から去ってからだ。宗滴は苦い顔でこう周囲に漏らしたのだった。
「こうなるとは思っておったがじゃ」
「それでもですか」
「残念だというのですね」
「うむ、まことにな」
その通りだと答える宗滴だった。
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