第六十七話 将軍の最期その十
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同時にだ。こうも言うのだった。
「しかし宗滴殿に頼るあまりじゃ」
「他の者はしっかりとはしていない」
「左様ですな」
「人がおらぬ訳でもないが宗滴殿以上の方はおられぬな」
信長は看破した。見事なまでに。
「だからどうということはない」
「左様ですな、あの家はです」
「上洛もせぬでしょう」
「格好の場におるのですが」
「宗滴殿にしてもじゃ」
その朝倉家を支える老将についてはだった。信長はかなり意識して話す。
「そうした野心はないようじゃしな」
「上洛して天下を窺う」
「そうした野心はですな」
「うむ、あの当主にはさらにない」
義景ならば余計にだというのだ。
「間違いなく動かぬわ」
「では朝倉殿から義昭様をお迎えすることはですな」
「容易ですな」
「むしろあちらから来られるだろうな」
信長は先を読んだ。そのうえでの言葉だった。
「義昭様からのう」
「成程、それではですな」
「義昭様が来られたならすぐに大義名分として」
「そうしてですな」
「うむ、上洛じゃ」
まさにそうすると答える信長だった。だが彼の内心はだ。
妙に焦っていた。しかし家臣達にそのことは話さずにだ。帰蝶にだった。
二人になったところでだ。こう言うのだった。
「できれば一刻も早くじゃ」
「上洛をですか」
「したいと思っておるのじゃがな」
これが本音だった。それを帰蝶にだけ話したのである。
そしてだった。そのことを表情にも出して言う信長だった。
「しかしそれはじゃ」
「できませぬか」
「何の理由もなしに都に入られぬ」
信長は難しい顔で述べる。
「それでは大義は得られぬわ」
「大義ですか」
「大義名分は必要じゃ」
腕を組み難しい顔になって述べる信長だった。
「さもなければ謀反人になってしまうわ」
「そうですね。確かな理由がなければ」
「あの公方様はわしを認めて下さった」
義輝についてはだ。信長は親しみさえ覚えていた。
そしてだ。彼は今残念な顔で言うのであった。
「その方をお救いできなかったのはじゃ」
「残念ですか」
「まことにな。しかし公方様はあえてわしを呼ばれはしなかった」
信長にはわかった。そのことがだ。
そして何故彼を呼ばなかったのか、そのこともわかっていてだ。
今ここでだ。忸怩とした顔で言うのだった。
「わしに御気を使われて。そうしてじゃ」
「公方様の御気遣いだったのですね」
「そうじゃ。わしは気遣いなぞいらん」
信長は強い声で述べる。
「遠慮せず呼んで下されたよかったのにのう」
「公方様には公方様の御考えがあったのでしょう」
帰蝶はその信長に対してあえて優しい声で述べた。
そして彼に茶を差し出してからだ。こんなことを言うのだった。
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