第六十七話 将軍の最期その六
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「この天下で何を考えておる」
「さて。それはです」
「どういだというのじゃ」
「さしあたってはそれがしのことを御気にかけてくださった公方様を」
「わしをここでか」
「おさらばです」
一礼してだ。そのうえでだ。
己の後ろの兵達にだ。こう告げたのだった。
「さすればじゃ」
「攻めますか」
「そうされると」
「そうじゃ。攻め方はある」
攻めあぐねている彼等への言葉だ。
「案ずることはない」
「しかしどうすればいいでしょうか
「これでは攻められませぬ」
「残念ですが」
「刀が尽きるまでは」
「畳みじゃ」
平然とだ。松永は彼等に告げる。
「それを使うのじゃ」
「畳をですか」
「それを使ってですか」
「攻めよと」
「何人かが畳を持つのじゃ」
まずはそうせよというのだ。
「そしてそのうえでじゃ」
「そのうえで、ですか」
「どうすると」
「公方様を囲め。そして畳で覆いそこからじゃ」
こう命じてだった。実際にだ。
彼等にそうだ。畳を持たせてそれでだ。
義輝を囲ませる。そうしてだ。
その畳で挟んだ。それを受けてだ。
義輝も動けなくなった。そのうえで言うのだった。
「むっ、これは」
「さて。これでご自慢の刀は使えますまい」
笑みを浮かべつつ言う松永だった。
「そしてそのうえで」
「くっ、そうしてか」
「おさらばです」
不意にだ。松永の周りの転がっていた刀や槍が一斉に浮き上がる。そうしてだ。
その刀や槍が義輝に襲い掛かりだ。畳の上からだ。
次々と刺し貫く。それを受けてはだった。
さしもの義輝も倒れた。畳と畳の間から血を流し出しつつだ。
苦悶の表情を浮かべながらだ。こう言うのだった。
「その術といいやはり」
「さて、それがし達は何でしょうか」
「闇の者、いや」
「いや、ですな」
「魔界の者か。聞いたことがある」
義輝は顔から段々血の気を失いながら述べていく。
「魔界衆。そうじゃな」
「御存知でしたか」
「闇の中で古来より蠢くまつろわぬ一族がおるとな」
「よくそこまで」
「滅ぼされたと聞いておったが」
「いえいえ、こうしてそれがしも生きておりますし」
「生きておったか。まことに」
「その通りです」
「まさかとは思った」
ここまで言ってだ。義輝は。
末期の顔でだ。こう言うのだった。
「この乱世で何をするつもりか」
「それをお話しても宜しいでしょうか」
松永は尚も悠然としてだ。死にゆく義輝に言葉を返した。
「それを」
「最早わしに言っても構うまい」
死相で言う義輝だった。
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