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戦国異伝
第六十六話 漆塗りその六
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「よくな」
「畏まりました。それでは」
「この度の話は」
「うむ、ではじゃ」
 こうして織田と武田の同盟は決まった。そのうえで互いの婚姻も定められた。平手と林は意気揚々と岐阜に戻ることができた。
 しかしだ。二十四将達は怪訝な顔でだ。彼等が去ったところで信玄に対してだ。それぞれいぶかしむ顔になり尋ねるのだった。
「御館様、一体何故あそこまで簡単にでしょうか」
「織田と手を結ばれたのでしょうか」
「箱と仰いましたが」
「それに何があるのでしょうか」
「見てみよ」
 その漆の箱を出して言う信玄だった。
 そしてだ。彼等に手渡してだった。
「隅から隅までな」
「この箱のですか」
「隅から隅までを」
「そうじゃ。見てみるのじゃ」
 こう二十四将に告げる。それを受けてだ。
 彼等もそれぞれその箱を回して見てみる。そしてだ。
 ここでだ。山本がだ。その隻眼で箱を見て言うのだった。
「むっ、これは」
「ほう、わかった様じゃな」
「はい、この箱は只の漆の箱ではありませんな」
 こう信玄に対して言うのである。
「漆を何重にも塗り」
「隅まで丹念に塗っておるな」
「はい、隈なく」
「箱なぞ本来はどうでもよいものじゃ」
 信玄はその箱についても述べた。
「所詮は贈りものを入れるものじゃからな」
「しかしその箱にまでです」
 山本はまた言った。
「ここまでするというのは」
「ないな」
「はい、ありません」
「そこじゃ。織田はそこまでしたのじゃ」
 信玄は信長についても言及した。
「そのたかが箱にまで念入りにな」
「入れものに過ぎぬ箱まで」
「そうしてきたと」
「見事じゃ」
 信玄はこうも言った。
「織田信長、伊達に僅かの間にあそこまでなった訳ではないわ」
「それだけのものがある」
「それが織田信長という男ですか」
「左様じゃ。今あの男と争うべきではない」
 信玄は二十四将達に述べた。
「とてもな」
「では今は美濃は攻めない」
「だからこそ手を結ぶのですな」
「その通りじゃ。織田は攻めぬ」
 とりあえず今はだ。そうするというのだ。
「このまま政に専念しじゃ」
「他の弱き者達を飲み込みそのうえで力を溜め」
「そのうえで、ですか」
「天下を治めるのは武田じゃ」
 信玄には自負があった。それがこの自負だった。
「そのことは間違いない」
「はい、ですからやがて織田もですな」
「軍門に下すと」
「うむ。しかしわしはまた一人会ったな」
 ここでまただった。信玄は言葉を変えてきた。
 そうしてだ。今度はこう言うのだった。
「上杉謙信、まずはあの者じゃ」
「越後の龍がどうされたのですか、一体」
「わしと互角に戦える。見事な者じゃ」
 それがだ。まずは謙信だというのだ
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