第六十六話 漆塗りその四
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「しかし平手殿がこうして使者に赴かれるとは」
「珍しいというのじゃな」
「そうです。普段は留守役が多いので」
「確かに。殿はわしに留守役をよく命じられるな」
「左様ですな。勘十郎様と共に」
「わしは頑固爺じゃ」
笑ってだ。平手は自分から言った。
「殿もお傍に置きたくないのじゃろう」
「いえ、これがです」
「違うと申すか」
「それがしはそう見ております」
「どうかのう、わしは口煩いのじゃが」
「それがよいかと」
林は笑って平手に述べる。
「平手殿らしくて」
「わしらしいか」
「若し平手殿が何も言われないとかえって怖いですな」
「では殿にしろ若い者達を叱ってこそか」
「それが平手殿です」
こんな話をしながらだ。武田の本拠地である甲斐に入った。するとだ。
すぐにだ。精悍な若武者が来た。彼はというと。
まずだ。こう二人に尋ねてきたのだった。
「平手政秀殿と林通勝殿ですね」
「うむ、そうじゃ」
「それで御主は」
「はい、真田幸村と申します」
若武者はこう二人に名乗った。動きの一つ一つがきびきびとしていてしかも礼儀正しい。ただ勇敢で武骨であるだけの者ではないことがわかる。
その彼がだ。こう言うのだった。
「御館まで案内させてもらいます」
「そうか。御主が真田幸村か」
林がだ。ここでその幸村を見つつ述べた。
「武田家でも随一の智勇兼備の若武者だという」
「智勇兼備か若武者かはわかりませんが」
この辺りは謙虚な幸村だった。そこはあえて応えずにそのうえで言うのである。
「それがしが真田幸村です」
「そうだな。その御主を案内役にしてくるとは」
平手も林もだった。あえて言葉には出さないがそれでもだった。
そこに武田信玄が織田家をどう見ているのかを見たのだ。それでだ。
二人はあえて小声でだ。こう話すのだった。
「やはり我等のことをな」
「かなり意識していますな」
「真田幸村、武田家でも随一の者だ」
「その者をこうして使者に送ってくるとは」
「武田は本気だな」
「左様ですな」
本気で織田家とやり取りをすることを見切ったのである。そのうえでだ。
囁き合いを止めてだ。あらためて幸村と向かい合いだ。彼に言うのだった。
「では案内を頼む」
「信玄公のところまでな」
「はい、それではです」
こうしてだ。幸村は二人を信玄のところまで案内するのだった。それを受けてだ。
平手と林も信玄の下に向かう。そうしてだった。
彼等はそのだ。信玄のいる館に入った。そこは簡素であるがだ。
二人の共をしている者達がだ。強張った顔で二人に言ってきた。
「あの、館自体は簡素なのですが」
「ここに詰めている兵達がです」
「やけに物々しいのですが」
「それも恐ろしいまでに
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