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戦国異伝
第六十六話 漆塗りその一
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                     第六十六話  漆塗り
 信長は都についてだ。危惧を抱き続けていた。
 それでだ。信行と信広、二人の弟にだ。馬の遠乗りから帰ってからこんなことを言うのだった。
 信長は馬から下りたばかりだ。そして弟達の出迎えを受けたその時になのだ。
 こうだ。弟達に言ったのである。
「三河の竹千代と近江の浅井に文を送れるか」
「はい、それは今すぐに」
「すぐに送れますが」
「そうか。では援軍を頼むか」
 真剣な顔でだ。弟達に告げたのである。
「そうするとするか」
「援軍、それではですか」
「都にですか」
「そうじゃ。上洛を考えておる」
 まさにその通りだとだ。信長は言った。
「織田の兵は何時でもじゃからな。それで権六と牛助にもじゃ」
 織田家の武の二枚看板も話に出すのだった。
「すぐに呼べ。いいのか」
「あの、それで二人に先陣を」
「そう仰るのですか」
「第一陣は権六じゃ」
 織田家で攻めるとなればやはり彼だった。彼のその勇猛さと戦場における統率と気迫は誰にも負けないものがある。まさに勇将だ。
「そしてその次は牛助じゃ」
 柴田が攻めることに秀でているのなら佐久間は守りだった。その守りの巧みさは慎重さと冷静さから来るものだ。そしてやはり指揮がいい。知将だった。
 その二人の名を出してだ。信長はまた言った。
「それぞれ一万と二人が望む将を下につけてじゃ」
「そうして兵を率いさせですか」
「兄上もまた」
「五郎左は第三陣、わしは当然本陣を率いる」
「あの、しかしそれはです」
「大義名分がありません」
 弟達はこれを出してだ。兄を止めに入った。
「兄上のお気持ちはわかります、しかしです」
「今上洛されても大義は立ちませんが」
「駄目か。三人衆と松永は公方様を今にも攻めようとしているが」
「それでも大義を言われたのは兄上です」
「それなくして上洛したとしても」
 それではただ都を制しただけの者になる。天下を思う者とは見なされない。そこに義という看板があるのとないのとでだ。全く違うのだ。
 それでだ。弟達も言うのだった。
「もうすぐ大義は向こうから来ます」
「ですから今はご自重を」
「止むを得ぬか」
 弟達に言われてだ。信長もだった。
 苦い顔になっていたがそれでもだった。彼等のその言葉に頷きだ。
 上洛を思い止まった。徳川と浅井に文を送ることもだ。
 それでだ。彼はだ。いささか面白くない顔で弟達に話した。
「では付き合ってもらおう」
「茶ですか」
「それにですか」
「そうじゃ。共に飲もうぞ」
 それで憂さを晴らすのが信長だった。酒を飲めぬ故にだ。
 だからこそだ。二人をそれに誘ったのだ。それを受けてだ。
 信行と信広もだ。こう兄に応えた
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