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戦国異伝
第六十五話 飛騨からの使者その十一
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「はい、それこそ何万もの兵が必要です」
「囲むだけでも」
「そうしてこの城を囲んでいる間に」
 そこからが真骨頂だった。北条の護りの。
「周りの城から兵を出してその敵を攻めればよいのじゃ」
「言うなれば小田原は囮ですな。敵をあえて引き付ける」
「そうしたものですな」
「その通りじゃ。この小田原城は容易には落ちぬ」
「ですな。この城だけはです」
「そうそう容易には」
「それこそ攻め落とすとすればじゃ」
 どうすればいいのか。城の主として話す氏康だった。
「十万かそれ以上の兵で囲みそうして周りの城を陥落させていく」
「そうしてこの城だけにすればですか」
「それで詰むと」
「それしかこの城を落とすことはできぬな」
 不敵に笑ってみせた。ここでだ。
「そして十万の兵ともなるとじゃ」
「天下広しといえどそこまで兵を出せる家もありませぬ」
「その織田や武田ですらも」
「五万かその辺りが限度ですな」
 それでどうしてこの小田原を攻め落とせるのかとだ。家臣達もこぞって話す。
 そしてそうした話からだった。氏康はまた述べた。
「ではそれぞれの城はこれまで通りさらに堅固にしてじゃ」
「そのうえで互いの連絡をより確かなものにしていく」
「それですな」
「狼煙台は常に置いておけ」
 狼煙で連絡を取る。それならばだった。
「それぞれの城だけでなく砦にもじゃ」
「畏まりました。それでは」
「その様に」
「わしは天下は望まん」
 氏康にはそのつもりはなかった。間違いなくだ。
「わしが望むのはこの関東のみよ」
「それは安芸の毛利もですな」
「あの家もそうだとか」
「天下を望む家だけではない」
 自身がそうだからこそだ。氏康も言えるのだった。
「そして天下を望む家とは相容れない。そのことをじゃ」
「肝に命じそのうえで」
「護りを固めていきましょうぞ」
 家臣達も応えてだった。北条は北条で動いていたのだった。他の家と同じく。


第六十五話   完


                    2011・11・8
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