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戦国異伝
第六十五話 飛騨からの使者その八
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 その彼にだ。信長はその名を問うたのである。
「御主、名は何という」
「煉獄といいます」
 鋭い目でだ。彼は名乗った。その間態度はふてぶてしい感じでだ。姿勢も首をやや下にして刀を肩に担いでいる。どうにも反抗的にも見える。
 その彼が煉獄と名乗り。さらにだった。
「刀とそれに五行を込めます」
「ほう、刀にか」
「はい、わしのこの刀で」
 その肩に担いでいる刀を信長に見せる。柄にそれはある。
「相手に向かって放ちます」
「ふむ。御主の術も面白い術じゃな」
「この術と刀には自信があります」
 煉獄は少しぞんざいな口調にもなっていた。
「まあ任せて下さい」
「それでこいつがなんです」
「飛騨者の頭です」
「おいら達のね」
 からくりに風、そして大蛇が話す。
「親父さんが早くに死んでそれで跡を継いだんです」
「それであたし達の頭になったんですよ」
「口は悪いけれど気のいい奴なんで安心して下さい」
「ははは、口の悪い者は織田家に多いわ」
 信長はこう言って煉獄のそうしたところも受け入れた。
「なら御主も思う存分暴れることじゃな」
「宜しくお願いします」
 煉獄は少しだが頭を垂れた。そのうえでの言葉だった。
「思う存分暴れてみせますので」
「頼んだぞ。さて、これで飛騨者も加わった」
 信長は満足した声で述べる。
「忍じゃから久助と小六に任せるとしよう」
「はい、お任せ下さい」
「忍の者でしたら」
「面白い者達が加わったわ」
 信長は実に楽しそうに笑って述べる。
「これで安心して上洛できるわ」
「では公方様からお声があれば」
「それが来たならすぐにですね」
「そうじゃ。上洛じゃ」
 それは今も信長の念頭にあった。だからこその言葉だった。
「じゃが公方様は」
「?どうされたのですか?」
「一体」
「うむ。文を送られぬかもな」
 眉を顰めさせてだ。こう言うのだった。
「そうして都でお一人で戦をされるか」
「あの、それは幾ら何でもです」
「危ういのでは」
「そう思いますが」
「わしもそう思う」
 信長にしろだというのだ。そう思うというのだ。
「しかし公方様にも意地がある」
「だからですか」
「公方様は文を送られぬと」
「そして美濃に来られることも」
「わしは今の公方様が好きじゃ」
 信長は個人的にだ。義輝を好いていた。そのことを言葉にも出す。
 そうしてだった。考える顔でこうも言うのだった。
「やはりここは強引にでもじゃ」
「上洛ですか」
「それをされるというのですか」
「そうするべきやも知れぬな」
 鋭い顔になってだ。信長は家臣達に述べた。
「いざとなればな」
「それ程公方様は危うくですか」
「そしてその公方様を。殿は」
「やはりお助けしたい」

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