第二十七話 愚劣な駒その十
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「それが彼だ」
「それはそうですけれどね」
「また言うがあそこまで愚かなら本当にどうしようもない」
「救われはしませんね」
「そうだ。だからだ」
諦めているというのだ。これが工藤の壬本への考えだった。
「どうしようもない。見ているだけだ」
「そうしますか」
こう話してだった。二人は壬本については完全に見捨てた。本心は決してそうするつもりはなかった。だがどうにもならない相手だからそうしたのだ。
そして聡美もだ。憂いに満ちた顔で言ったのだった。
「私もです」
「ああ、銀月さんもだね」
「それはだな」
「何かを見捨てることは辛いことです」
これが聡美の言葉だった。
「それが誰であろうとも」
「そうだね。相当憎い相手でもないとね」
「それをすることはな」
「はい、辛いことです」
こうだ。二人に言ったのである。
「ですが。それでもしなければいけない時があります」
「それが今なんだよね」
「彼に対してだ」
「そうですね。それでは」
こう話してだった。聡美も諦めるしかなかった。こうして少なくともこの三人もだ。壬本は見捨てたのだ。だが本人だけが気付いていなかった。
その気付いていない男は相変わらずだ。濁った目で町を徘徊してだ。偶然だ。
目の前に上城を見た。丁度部活の帰りで樹里と共にいた。その彼にだ。
こっそりと後ろから近付きだ。闇の剣を出し突きにかかった。だが。
殺気があった。それを感じ取りだ。上城は樹里をその手に抱いてだ。
その身体を左に跳ばした。そして言ったのだった。
「危ない!」
「!?」
「来た、これは」
樹里を抱いたまま跳びだ。二メートル程左に着地した。それからだ。
自分達が今までいたところを見た。そこに彼を見た。上城はその彼を見てすぐに悟った。
「貴方は」
「剣士。闇の剣士だよ」
壬本はこう名乗った。
「壬本調作。覚えておくことはないよ」
「闇の剣士」
「そう、闇の力を使うよ」
無造作にだ。日本刀の形をしたその黒い刀を右手に持っていた。刃を上に向けてだ。その手を見てだ、上城は彼がどういった人間なのかわかった。
それでだ。こう言ったのだった。
「貴方は剣道は」
「僕には闇の力があるよ」
「そうですか」
「まずは君を殺す」
その刃を上に向けたまま。壬本はまた言う。
「そして僕の望みを適えるんだ」
「だから僕とですか」
「そう、君を殺すんだ」
濁り。愚劣さだけが見える目での言葉だった。
「僕を馬鹿にした奴等を皆見返してやるんだ」
「事情はわからないですけれど」
首を捻りながらだ。上城は壬本に述べた。
「闘われるんですね」
「殺すよ」
「そうですか。けれど」
「けれど?」
「僕は。人間同士、剣士同士の闘いは」
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