第六十四話 焼きものその四
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「事実を話してもわしは怒らぬ」
「むしろそれよりもですか」
「事実を聞きたいのじゃ」
彼等の本音をだというのだ。
「してじゃ。御主等はよもや年貢までよいと言われるとは思わなかったか」
「まずは年貢です」
実際にだ。こう述べる村長だった。
「しかしそれを焼きものに専念せよとは」
「焼きものもまた米と同じだけの利をもたらすからじゃ」
「米と同じ様にですか」
「売れれば銭が入る」
米は即ち銭だ。そうした時代だった。
「むしろ普通に年貢を納めてもらうより実入りがいいやもな」
「だからこそですか」
「我等に焼きものに専念せよと仰るのですか」
「そういうことじゃ。わかったな」
あらためてだ。信長は長老と村長に述べた。
「焼きものじゃ」
「わかりました。それではです」
「その様にさせてもらいます」
「うむ、頼んだぞ」
こうしてだった。信長は瀬戸で焼きものを大いに作らせることになった。そうしてそのうえでだ。彼は岐阜に戻った。その帰路においてである。
慶次がだ。その信長に笑いながらこう言ってきた。その名馬松風に乗りだ。
「いや、これでよい茶器ができれば」
「よいというのじゃな」
「それが殿の狙いですな」
慶次は笑って信長に問う。
「茶器で儲けられる以外にも」
「そうじゃ。わし等もよい茶器を造る」
実際にそうだとだ。信長は笑みを浮かべて話す。
「そしてわしがその茶器を買うのじゃ」
「買われますか」
「向こうから献上してくれてもよい」
それも断らないというのである。
「無理強いはせぬ。必要とあらば買う」
「どちらにしろよい茶器をこちらでも造って手に入れられますか」
「名器がなければ造ればよい」
信長はこう考えていた。それを実際に言ってみせたのだ。
「そういうことじゃ」
「面白いですな」
信長のなければ造るという考えをだ。慶次は明るく笑って応えた。
「ではわしもです」
「御主もか」
「傾いた茶器で茶を美味く飲みましょうぞ」
「御主は何でも傾くのじゃな」
今慶次郎に言ったのは池田だった。少し呆れた口調である。
「全く。何でもかんでも傾くか」
「傾奇者故」
だからだとだ。慶次は笑って話す。
「そうするのじゃ」
「御主らしいのう。そうしたところは」
「茶も傾く」
「実際にそうするか」
「勝三郎殿はどうされるか」
「わしは傾くことはな」
真面目は彼はだ。そうしたことについてはだった。
今一つ晴れない顔になってだ。こう言ったのである。
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