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戦国異伝
第六十四話 焼きものその一
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                    第六十四話  焼きもの
 瀬戸に向かう途中でだ。池田はふと主に対して言った。
「それにしても尾張にいた頃はよくですな」
「あちこちを駆け回ったというのじゃな」
「はい、馬で」
 その頃のことをだ。池田は信長に笑顔で話すのである。
「毎日そうされましたな」
「そうじゃったな。多少の雨でもな」
「殿は雨でも構いませんでしたな」
「戦は雨でも行う」 
 だからだというのだ。
「それで雨に駆けぬというのもじゃ」
「意味がありませぬか」
「わしはそう思うがな」
「しかし風邪をひきませぬか」
「その程度で風邪をひくのも何にもなるまい」
 そのことにはこう返す信長だった。
「雨が降った位で風邪をひいてはな」
「それも戦場ならばですな」
「そんなことも言ってはおれぬ」
 それでだ。雨が降ろうともだというのだ。
「わしは駆けるぞ」
「馬をですな」
「そして泳げる季節には泳ぐ」
 殆ど冬以外にはだ。信長は毎日泳いでいた。
 そしてそれは何故かというとだ。
「泳ぎも然りじゃ」
「例え雨でもですか」
「敵は待たぬ。それこそ流される位川の流れが強くない限りは泳ぐぞ」
「それが殿の御考えですな」
「そうじゃ。幼い頃から変わらぬな、このことは」
「確かに」
 池田も主のその言葉に頷いて述べる。
「殿は左様ですな」
「そういうことじゃ。雨でもわしは駆けるし泳ぐぞ」
「鍛錬としてですな」
「人間逃げる時は己だけじゃ」
 命賭けで逃げる、その時はだというのだ。
「だからじゃ。馬に水じゃ」
「殿は御幼少からそう言っておられますな」
「あれじゃぞ。家康にしてもじゃ」
 織田の同盟者であり三河を治める彼はどうかというのだ。
「剣だけでなく馬に水もじゃ」
「両方いけるというのですな」
「何度もいうが運は大きい。
 それは間違いないとだ。信長は述べてだった。
「しかしそれを掴むのもじゃ」
「己ですか」
「そしてその為には命がいる。命を護るのは」
 それは誰かはもう愚問であった。
「わかるな」
「はい、さすればそれがしも」
「わしは敵を背に向けても怒らぬ」
 そのことはだ。信長はしっかりと言った。
「戦で逃れるのが一番難しいであろう」
「ですな。我が軍では佐久間殿が退きは上手ですが」
「退き佐久間ですな」
 ここで言ったのは可児だった。
「あの御仁は権六殿とは正反対で」
「普段は大人しい方なのじゃがな」
「しかし一旦戦に出られればですな」
「最近特に力をつけておられる」
 このことはよかった、織田家にとって。
「最早権六にも引けは取りませぬ」
「大丈夫であろうな。さて」
「さて?」
「さてといいますと。」
「武はあの二人じゃが」

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