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戦国異伝
第六十三話 岐阜その十四
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「それがしが食う人のものはあくまで飯だけでござる」
「しかも餓えている者や弱い者から盗ることもせぬ」
 それは食いものだけに限らない。
「そうした者だからじゃ」
「今回瀬戸にでございますか」
「連れて行く。助右衛門もじゃ」
 奥村も見て言う。
「よいな」
「はい、それでは」
 奥村は今度は真面目な顔で信長に答える。いつも真面目であるが何かあると妙に間抜けた感じになってしまう。それが奥村だった。
「そうさせてもらいます」
「では勝三郎」
 池田のその幼名を呼んでだった。
「行くぞ」
「畏まりました」
 こうしてだ。信長は瀬戸に赴くことになった。その話の後でだ。
 信行がだ。表情は変わらないが少し嘆息してだ。そのうえで梁田に言うのだった。
「まあ兄上らしいが」
「慶次を連れて行かれることですな」
「瀬戸はわかる」
 流石に兄弟だけあってだ。それはわかるというのだ。
「しかしそれでもじゃ」
「慶次はですか」
「あれは仕方のない悪戯者じゃ」
 こう言うのである。
「わしも以前部屋で書を読んでいる時にうとうとなってじゃ」
「その時に」
「左様。書をさかさまにされておったわ」
「慶次にしては穏やかな悪戯では?」
「確かにうとうとなったわしに非がある」
 そのことはだ。信行も素直に認める。しかしそれでもだと。彼は感情から話す。
「だがのう。ああしたことをするか」
「ですからそれは」
「あ奴の悪戯では軽い方じゃな」
「はい、そうです」
 こう言う梁田だった。
「そう思いますが」
「では納得するしかないか」
「慶次はあれは童心の者ですから」
「子供か。邪気はないか」
「それが慶次のよいところだと思いますが」
「確かにな。何だかんだでわしもあ奴は嫌いではない」
 悪戯者でその悪戯を受けていてもだ。信行にしろそうだった。
「それではな」
「はい、それでは」
「とはいっても兄上は慶次を護衛にされるのか」
「個人の武芸では織田家随一ですぞ」
「じゃがどうも護衛にはのう」
 慶次は向かないのではというのだ。その風来坊な気質故にだ。
「それこそ鎮吉や五郎八がおるではないか」
「あの者達も近頃政に忙しいですし」
「暇なのは慶次だけか」
 ここでこうも言う信行だった。
「政はせぬからのう。あの者は」
「むしろ政をする慶次というのは」
「想像できぬな」
 これは信行にしてもだった。
「実際のところな」
「ではあの者はあのままで」
「言ってそれで政をする慶次も想像できん」
 そうした意味で彼はまことの傾奇者だった。天下に比類なき。
「だからよいか」
「そうですな。それでは」
「あの者にはあの者の好むことをやってもらおう」
 こんなことをだ。留守に話す彼等だった。その
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