第二十六話 壬本という駒その八
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この流れはわかっていた。それでだった。
岩を動かしてそれでだ。壬本を襲う。その岩がだ。
一直線に壬本に向かい。そして。
その右腕を襲う。それで肩なり腕を潰してだ。二度と戦えない様にしようとした。
だがそれでもだ。壬本はだ。
逃げた。何とだ。工藤に背を向けてだ。
そのまま一直線に逃げていく。それを見てだ。高橋が言った。
「えっ、まさか」
「逃げただと」
「はい、逃げていますね」
こう言ったのだった。二人でだ。
「これは一体」
「想定していなかった」
とてもだった。工藤もだ。
「まさかこうして逃げるとはな」
「そうですね。それにしても」
工藤のその勢いはだ。まさに脱兎だった。
一目散にだ。工藤の方を振り向きさえせずだ。彼は逃げていった。
岩はそのまま落ちていく。そしてだった。
その岩がアスファルトに炸裂してそれを砕く直前でだ。工藤はまた剣を一閃させた。
岩はそれで消えた。それを見届けてだ。
彼はだ。高橋にこう言ったのだった。
「さて」
「さて、だな」
「彼は逃げた」
もう姿は見えなくなっていた。既にだ。
だがその壬本についてだ。工藤は言ったのだった。
「相手がいなくなった」
「それではどうするかですね」
「相手がいなくなっては仕方がない」
それではだとだ。また言ってだ。
工藤は剣を収めた。そのうえでだ。
高橋にだ。首を傾げさせながら述べたのだった。
「帰るか」
「そうしますか」
「しかし。彼はだ」
「どういいますか」
「本当にどうしようもないな」
工藤は軽蔑を込めてだ。こう言い捨てた。
「ああした剣士もいるんだな」
「そうですね。いえ」
「いえ、か」
「はい。彼は剣士じゃないんじゃないですかね」
高橋は考える顔でだ。工藤にこう話したのだった。
「実は」
「剣士ではないのに剣を持っているのか」
「その理由はわかりませんが」
「しかし剣士ではないか」
「そうじゃないですかね」
考えるものにさらにだ。首を傾げさせてだ。高橋は工藤に話していく。
「そんな気がします」
「そういえば剣士にしてはだ」
「性格が歪とかは抜いて」
「戦いを全く知らない感じだったな」
「剣士のこともですね」
「かじっただけの知識だったな」
剣士についての知識、壬本のそれはそうしたものだったというのだ。
「どうやらな」
「そうですよね。その知識は」
「剣士についての知識は時々あの声が教えてくれるがな」
「あと。彼女ですね」
「八条大学の留学生の娘だな」
「銀月聡美さんですね」
聡美の名前もだ。ここで出て来たのだった。
「あの娘も時々俺達に教えてくれます」
「あの娘は母国ギリシアで剣士の戦いに関する古典を手に入れたそうだ
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