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戦国異伝
第六十二話 名軍師その十

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「ゆっくりと状況を見てじゃ」
「そのうえで、ですね」
「攻めていけばよいのじゃ」
「わかりました。それでは」
「その間は政じゃ」
 信長の顔があらたまった。自信に満ちた笑みから真剣なものになる。
「よいな。美濃を治めていくぞ」
「どうも斉藤龍興は何もしていなかった様で」
「国が乱れておるな」
「はい、中々深刻です」
「わかった。ではじゃ」
「政をですな」
 こういうことで話はまとまりだ。信長は美濃の政をはじめたのだった。
 そしてその政のはじまりを見てだ。四人衆と竹中もだ。
 田畑の開墾にあたりながらだ。こんな話をしたのだった。
「ううむ、堤も整えておられるし」
「そして田畑か」
「それも耕される」
「かかる金を厭われることもない」
 信長は政には必要なだけの金を投じる。その中でだ。
 出費を渋ることはない。ただし無駄にも使わない。
 金は的確に使う。彼等もそれを見て話すのである。
「中々凄いな」
「兵よりもまず政か」
「そちらを徹底的に整えそうしてか」
「そのうえでことを進められておるな」
 こう話す四人衆にだ。竹中がこう話す。
「定石です。しかしです」
「しかしか」
「そうなのじゃな」
「はい、その定石を正しくされる方は少ないです」
 そうだというのだ。竹中はここで言ったのである。
「ましてや。中にはです」
「主ということで酒色に溺れる御仁もおられるな」
「龍興殿の様な」
「ああした御仁もな」
「はい。ああした方もおられます」
 実際にそうだとだ。竹中は述べた。
「多いのは兵を手に入れられるとまず戦ばかりされる方です」
「しかし信長様は違う」
「こうして政にあたられる」
「最初はそれじゃな」
「そうされているな」
「そうした方はまことに稀です」
 竹中は再び言う。
「殿の他には武田殿に北条殿、毛利殿でしょうか」
「天下に多くの戦国大名がいてもそれだけか」
「僅か四人」
「それだけじゃというのか」
「はい。かつては道三様もでしたが」
 彼もそうだったのだ。まずは政だったのだ。
 しかしその道三亡き今だ。いるのは彼等だけだった。
「今はその方々だけです」
「それが殿か」
「信長様か」
「そうなるか」
「はい。お言葉の通りです」
 竹中は民達の開墾の動きを見回りながら述べる。整えられた堤の傍で新田が開墾されていく。それを見ながら話をするのだった。
「まずは政です」
「確かに。お言葉通りじゃな」
「実際に政からはじめておられる」
「そのうえで民を安んじさせるのか」
「政において」
「信長様の税は軽いです」
 それもだ。信長は軽くしていた。
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