第六十二話 名軍師その九
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「それはせぬ」
「されぬのですか」
「上洛はするがすぐには向かわぬ」
そうした意味での言葉だった。信長の今の話は。
「そうする。よいな」
「すぐには向かわぬとは」
「確かに美濃は手に入れた」
弟に対してだ。こうも言うのだった。
「そして多くの兵達もじゃ」
「ではすぐにでも」
「それでもまだじゃ」
信長の言葉は変わらない。
「まだ都には向かわぬ」
「それはまた何故」
「御声がかかっておらぬ」58
それでだというのだ。
「公方様からも朝廷からもじゃ」
「だからですか」
「今行っても大義名分がない」
政治的にだ。それを見てなのだった。
「それで行っても下手をすれば逆賊じゃ」
「木曾義仲の様にですな」
「そうなれば元も子もない。だからじゃ」
「大義名分が出来てからですか」
「上洛する。どのみち暫くすればじゃ」
どうなるか。信長はこのことについても言ってみせる。
「公方様なり朝廷なりからじゃ」
「お声が来ますか」
「うむ、そうなる」
都に来いとだ。都から声が来るのだというのだ。
「何しろ今都は荒れ果て何にも残ってはおらぬからじゃ」
「公方様、朝廷もですな」
「ならばすぐにあちらから声がする」
こう話してからだった。信長はこんなことも言った。
「少しだけ待てばよいのじゃ」
「割り切っておられますな」
そんな兄を聞いてだ。信行は首を捻り唸る様にして述べた。
「そしてその間にですね」
「出陣の用意も整えておく」
「お声がかかれば早速出陣出来る様に」
「そうしていく。それで道じゃが」
「やはり近江から向かわれますか」
「あそこが一番近い」
近江を抜ければもうそこは都だ。それを考えれば実に近い。
「だからじゃ。それでじゃ」
「確かに。伊勢から大和に入りそこから都に向かうこともできますが」
「遠い」
それが大和を通らない理由の一つだった。
そしてその他の理由もだ。信長は話した。
「それに大和には蠍がおる」
「松永久秀、ですね」
「あの雲は梟雄よ。梟雄は相手の隙を常に窺っておる」
「若し丸腰でその大和に入れば」
「終わりじゃ」
まさにそうなるというのだ。
「だから大和は駄目じゃ」
「近江ですな。どうしても」
「幸い近江の北の浅井は頼りになる」
浅井についてはだ。信長は完全な信頼を向けていた。
そうしてだ。こうも言ったのである。
「完全にじゃ」
「だからこそですか。近江の六角の領地を通りますか」
「すんなりと通せばそれでよい」
「そうでなければ」
「攻めるだけじゃ」
だからこその五万を超える大軍だった。信長はこの大軍の力を最大限に出してだ。そのうえで都まで向かおうと考えているのだ。
「その際はな」
「成程。その攻
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ