第二十五話 使い捨ての駒その六
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彼とは別にだ。闇の中でだ。こんな話が為されていた。
「では君はだ」
「はい」
上からの強い声にだ。小柄な猿に似た卑小な印象を見せる男が応えていた。
見れば髪の毛は汚らしく伸びていて服装もだらしない。猿に似ているのは姿勢だけでなく顔もそのままだった。ニホンザルそっくりである。
背は低い。一六〇もない。しかも背中も曲がっている。その男がだ。
闇の中でだ。こう声に言ったのである。
「あの剣で、ですね」
「戦うのだ。そしてだ」
「僕を拒んだ世界を」
「好きにするのだ。特にだ」
「中田ですね」
彼の名前をだ。男は出した。
「あの男も剣士なんですね」
「如何にも。君が憎むあの男もだ」
「中田は酷い奴です」
男は言うのだった。忌々しげな恨みに満ちた声で。
「僕を陥れてそのうえで」
「君は家を追い出されたな」
「そして学校も辞める羽目になりました」
「つまり君は一度破滅している」
声はこう男に告げる。
「それからはどうしていたのだったかな」
「ホームレスをして」
そしてだった。
「施設に入って生活保護を受けていました」
「そして今に至るか」
「施設も薄情です」
今度もだ。男は他者を責めていた。
「僕はただ施設のお金を借りただけです」
「そうだったな。借りただけだったな」
「遊ぶお金が欲しかったので」
つまり窃盗を働いたのだ。しかしだ。
そのことについて何の罪悪もなくだ。むしろだ。
それを咎めた相手を責めてだ。こんなことを言うのだった。
「それだけだったのに追い出して」
「そして私に拾われた」
「貴方には感謝しています」
とはいってもだ。自覚しない感謝のなさがそこにはあった。
「僕を助けてくれてそのうえで」
「君に剣を与えたからな」
「ではこの剣で。まずは」
「まずは。どうするのかね?」
「あの店の。僕を叩きのめした店長にです」
「復讐をするのだね」
「そうします」
卑屈に見える姿勢からだ。こう声に答えるのだった。
「あの店長とクラスの奴等、特に中田の為にです」
「君は破滅したからか」
「仕返しをしてやります」
一方的な憎悪に満ちた言葉だった。
「あいつ等に。絶対に」
「では頑張るのだ」
声は男に告げた。
「そして復讐を果たしてだ」
「そのうえで、ですね」
「君の願いを果たすのだ」
こうもだ。声は男に告げたのだった。
「君の剣士としての願いをな」
「その為にはですね」
「君の他の剣士を殺せるな」
「他の剣士には申し訳ないですが」
少し聞くと良心の咎めが感じられる。しかしだ。
その実はだ。ただ己しかない。それはこの言葉にはっきりと出ていた。
「僕の為ですからね」
「そうだ。全て君の為だ」
「ならやれます
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