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戦国異伝
第六話 帰蝶その十
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「舞を舞わせるのもよいがな」
「随分と市殿を愛されているのですね」
「おなごはまずそなたじゃ」
 さりげなくこんなことも言ってみせる信長だった。
「おのこは多い」
「多いのですか」
「弟達も家臣達もおるからな。皆わしにとってはかけがえのない者達よ」
「皆ですか」
「そうじゃ、皆じゃ」
 己にとって欠かせない者達であるというのである。
「おなごはそなたの次は多いわ。妹も多いからのう」
「妹殿達もまたですか」
「皆わしの妹じゃ。大切に思わない筈があろうか」
 信長は妻に対してこう話すのであった。
「そうであろう」
「その中でもやはり」
「うむ、市は特別じゃな」
 信長の語るその顔が真剣なものになった。
「顔がよいだけではない。心根も優しい」
「そうですね。市殿はまだ幼いですが」
「しかも頭もよいわ。あれはきっと天下一のおなごになる」
「だからこそですか」
「あれは必ず幸せになってもらう」
 信長は立った。そして部屋の障子を開けた。するとそこからようやく昇ったばかりの日の光が部屋の中に入って来た。白い光である。
「そうするのはわしじゃ」
「殿がなのですね」
「兄だからのう。では行くか」
「はい、それでは」
「わしの馬の乗り方は荒いぞ」
 また妻の方を振り向いて言う。
「それでもよいのじゃな」
「礼儀正しい乗り方なぞ戦の場では役に立ちませぬ」
 またこう言う帰蝶だった。
「さすればです」
「ついて来れるな」
「そうでなければ何の意味もないかと」
 その言葉には自信も含まれていた。
「おおうつけ殿の妻としては」
「よし、よくぞ言った」
 信長は今の言葉にさらに笑った。
「それではじゃ。共に来い」
「喜んで」
 こうしてであった。帰蝶は信長と行動を共にすることになった。彼女もまた信長に魅了されていくのであった。多くの者達と同じく。
 信長の周りに人が集っていた。そしてであった。
 ある日彼はふと兵の訓練を見ていた。その中でだ。
 一際小柄で猿に似た顔の者を見つけた。それでふと傍らにいる前田に問うた。
「又左、あの者は何じゃ」
「あの者といいますと」
「あの猿に似た奴じゃ」
 その足軽を指し示しての言葉である。
「あれを知っておるか」
「確か木下秀吉といいました」
 前田はこう信長に答えた。
「前は藤吉郎といったのですか」
「ふむ。秀吉というのか」
「左様です。弟も当家に仕えております」
「弟もとな」
「弟の方は秀長といいます」
 彼はその名も信長に述べた。
「この城で雑用をしていますが」
「ふむ。そういえばだ」
 前田の話を聞いてだ。信長はある者を思い出した。それこそがであった。
「おったな、雑用の者の中にあれによく似た小さいのが」
「はい、
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