第六十一話 稲葉山入城その七
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その彼等の降伏を受けながらだ。こう言うのだった。
「思った通りにしてもじゃ」
「何かありますか」
「うむ、これが滅びるということじゃな」
見ればだ。信長の顔は多少困惑したものだった。
そしてその困惑した顔でだ。彼は言うのである。
「意外と呆気ものじゃな」
「そうですな。確かに」
「これは」
「壮絶に滅びる家もあれば呆気なく滅びる家もある」
ひいてはだ。そうなるともいうのだ。
「そういうことじゃな」
「ですな。それでなのですが」
「肝心の龍興めをです」
「この城において」
「うむ、捕らえよ」
信長もそのことを言う。
「捕まえるからには必ずじゃ」
「畏まりました。それでは」
「今すぐに」
家臣達も応えてだった。
すぐに龍興が探される。しかしだ。城内の何処を探しても姿は見えずだ。代わりに降伏した足軽達からこんな話が聞けたのであった。
「龍興様はどっかに行かれましたよ」
「何かお傍の人を僅かに連れられただけで」
「夜のうちに何処かに」
「城を出られたんじゃないんですか?」
こう言う彼等だった。それを聞いてだ。
信長もだ。一応は追えと言った。しかしだ。
行方は知れなかった。それで安藤がこんなことを言った。
「飛騨なり近江なり伊賀なりにです」
「逃れたというのか」
「まだ稲葉山から何処かには逃げられます故」
それでだというのだ。
「もうおられぬのではないかと」
「ではあれじゃな」
それを聞いてだ。信長も言う。
「これ以上追っても仕方がないか」
「おそらくは」
「そうか。なら仕方がない」
信長も諦めるしかなかった。このことについてはだ。だが彼はどうしても諦めきれぬことがあった。それはどうしたものかというと。
茶器であった。城を占拠する際にだ。
信長が欲しがっていた斉藤家の茶器の一つがだ。無残に割れてしまったのである。それを見て信長は悔やむことしきりであった。
それで入城しても憮然とすることしきりであった。しかしだ。
それから数日経ちだ。帰蝶も清洲から移ってきた。その彼女が夫と会い開口一番だ。こう告げたのである。
「駄目なものは駄目なのです」
「割れてしまったものはか」
「そうです。全てのものはやがて壊れてしまいますね」
「その通りじゃ」
このことは言うまでもなかった。特に信長にとってはだ。
実際にだ。彼はこう言ってみせた。
「滅せぬものはない」
「人もものもですね」
「左様じゃ。だからか」
「はい」
帰蝶は聡明な顔で夫に話す。
「ですから諦めるより仕方がありません」
「そうじゃな。ではじゃ」
妻に言われてだ。ようやくだった。
信長も頷きだ。それはよしとした。そのうえでだ。
あらためて稲葉山城に入りだ。山頂
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