暁 〜小説投稿サイト〜
戦国異伝
第六十一話 稲葉山入城その七
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

 その彼等の降伏を受けながらだ。こう言うのだった。
「思った通りにしてもじゃ」
「何かありますか」
「うむ、これが滅びるということじゃな」
 見ればだ。信長の顔は多少困惑したものだった。
 そしてその困惑した顔でだ。彼は言うのである。
「意外と呆気ものじゃな」
「そうですな。確かに」
「これは」
「壮絶に滅びる家もあれば呆気なく滅びる家もある」
 ひいてはだ。そうなるともいうのだ。
「そういうことじゃな」
「ですな。それでなのですが」
「肝心の龍興めをです」
「この城において」
「うむ、捕らえよ」
 信長もそのことを言う。
「捕まえるからには必ずじゃ」
「畏まりました。それでは」
「今すぐに」
 家臣達も応えてだった。
 すぐに龍興が探される。しかしだ。城内の何処を探しても姿は見えずだ。代わりに降伏した足軽達からこんな話が聞けたのであった。
「龍興様はどっかに行かれましたよ」
「何かお傍の人を僅かに連れられただけで」
「夜のうちに何処かに」
「城を出られたんじゃないんですか?」
 こう言う彼等だった。それを聞いてだ。
 信長もだ。一応は追えと言った。しかしだ。
 行方は知れなかった。それで安藤がこんなことを言った。
「飛騨なり近江なり伊賀なりにです」
「逃れたというのか」
「まだ稲葉山から何処かには逃げられます故」
 それでだというのだ。
「もうおられぬのではないかと」
「ではあれじゃな」
 それを聞いてだ。信長も言う。
「これ以上追っても仕方がないか」
「おそらくは」
「そうか。なら仕方がない」
 信長も諦めるしかなかった。このことについてはだ。だが彼はどうしても諦めきれぬことがあった。それはどうしたものかというと。
 茶器であった。城を占拠する際にだ。
 信長が欲しがっていた斉藤家の茶器の一つがだ。無残に割れてしまったのである。それを見て信長は悔やむことしきりであった。
 それで入城しても憮然とすることしきりであった。しかしだ。
 それから数日経ちだ。帰蝶も清洲から移ってきた。その彼女が夫と会い開口一番だ。こう告げたのである。
「駄目なものは駄目なのです」
「割れてしまったものはか」
「そうです。全てのものはやがて壊れてしまいますね」
「その通りじゃ」 
 このことは言うまでもなかった。特に信長にとってはだ。
 実際にだ。彼はこう言ってみせた。
「滅せぬものはない」
「人もものもですね」
「左様じゃ。だからか」
「はい」
 帰蝶は聡明な顔で夫に話す。
「ですから諦めるより仕方がありません」
「そうじゃな。ではじゃ」
 妻に言われてだ。ようやくだった。
 信長も頷きだ。それはよしとした。そのうえでだ。
 あらためて稲葉山城に入りだ。山頂
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ