暁 〜小説投稿サイト〜
久遠の神話
第一話 水の少年その十一

[8]前話 [2]次話

 そこでだ。どうかというのだ。
「そこはどうですか?」
「ああ、どっちも行くぜ」
「やっぱりそうなんですか」
「まあ。機会があればな」
 一度飲むというのだ。
「そうしような」
「ええ、機会があれば」
「ただ。今はな」
 今はどうするかというと。それは。
「一人で飲みたい気分だからな」
「それでなんですね」
「ああ、これでお別れだよ」
 そうだといってだ。そうして。
 中田は上城に背を向けてだ。最後に言った。
「じゃあな」
「はい、さようなら」
「またな」
 こう挨拶をしてだ。それでだった。
 彼等は別れた。中田は夜の道の中に消え上城も自分の家に戻った。家に帰るとだ。すぐにだった。
 彼の母親、小柄でまだ若さの残る顔立ちの彼女がだ。彼にこう言ってきたのだ。
「あれ、今日は遅かったわね」
「ちょっと人とお話してたんだ」
「人って?」
「大学の人と」
 中田のことをだ。ありのまま話すのだった。
「少しね」
「それで遅かったの」
「うん、僕と一緒で剣道をしてる人で」
 母にこのことも話す。話をしながら制服姿でテーブルに座る。だがそこにはまだ料理は来ていない。母が冷蔵庫から出そうとしているところだった。
 それを見ながらだ。彼は話すのだった。
「凄く強い人だったんだ」
「そんなに?」
「うん、もう鬼みたいなね」
 そこまでだと。母には鬼だと話す。
「滅茶苦茶強いんだ」
「鬼なの」
「そう、鬼」
 こう話すのである。
「とんでもない位にね」
「じゃああんたよりもね」
「僕なんか全然だよ」
「比べ物にならないの」
「そう、あんなに強い人いないかもね」
 ここまで言うのだった。
「いや、本当に」
「じゃああんたはね」
「僕は?」
「その人みたいになりたいのね」
 母は微笑んで我が子にこう尋ねた。
「そう思ってるのね」
「そうだね。言われてみればね」
「そうよね。だから言うのよね」
「あんな強い人になれるかな」
「なれるでしょ。努力すれば」
「努力すればだね」
「そう、なれるわよ」
 また我が子に言う母だった。
「けれどあんたも」
「僕も?」
「二段だし。段位の話じゃないけれど」
「強いっていうんだね」
「高校生では強い方でしょ」
 剣道部ではレギュラーだ。八条学園高等部の剣道部は県内有数の強豪でもある。従って彼の強さもかなりのものなのである。
 だが、だ。上城はこう母に言うのであった。
「僕なんかとてもだよ」
「そんなに凄いの」
「僕は高校生でその人は大学生で」
 年齢のことも話すのだった。学生の頃はその強さに年齢が大きく関係する。熟練だけでなく体格や運動能力の違いが出てである。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ