第六十話 四人衆帰順その七
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墨俣城にだ。丹羽が己が率いる兵と共に入った。その彼を木下が出迎えてだ。こんなことを言うのだった。
「いや、五郎左殿が来られるとこれで大丈夫です」
「そうは思わぬがな」
「そうなのですか」
「猿、御主がやってくれたからじゃ」
それでだとだ。彼は木下に言うのである。
「御主が一夜でこの城を築いてくれたからじゃ」
「だからですか」
「わしはこの城に兵を入れただけじゃ」
それに過ぎないというのだ。彼は。
「御主の城あってのこそじゃ」
「そうであればいいですが」
「そう思っておるのか」
「まあわしとしてはです」
木下は笑ってこんなことをだ。丹羽に話した。
「わしの功で母上が楽になればそれでよいので」
「そういえば御主は御母堂をかなり大事にしておるな」
「やはり。人ですから」
それでだとだ。木下は丹羽に話すのである。
「親は大事にしたいので」
「よいことじゃ。実際にそうしたことをする者は少ないからのう」
「そうなのですか?」
「殿もお母上のことには腐心されておられるがな」
そしてだった。丹羽はこの者の話も出した。
「三河の徳川殿もお母上は大事にされておられる」
「左様ですか。あの方も」
「そうじゃ。しかし今の世ではそれが中々難しい」
「ですな。戦国の世では」
「だが御主も徳川殿もそこはしっかりしておる。わしもそうしたいものじゃ」
こう話してだ。丹羽はここでも主の話をした。
「殿もまことにじゃ。御母堂のことはじゃ」
「腐心されておられますか」
「あれでな。殿は決して苛烈な方ではないからな」
「そこがよく勘違いされますな」
「しかも神仏を敬わないという訳でもない」
丹羽はだ。意外なことを言った。少なくとも信長について知らない者にとってはだ。だが木下も周りにいる蜂須賀達もこのことは当然の顔で聞いていた。
その丹羽の話はというと。
「神社や仏閣は助けておられる」
「ですな。禅宗の和尚の方ともよくお話されていますし」
「あと御仏の像や墓石をじゃ」
どう考えているかというのだ。そうした神聖と考えられているものは。
「近頃こんなことを言っておられる」
「といいますと?」
「そこにある力を城に宿せぬものかとだ」
明らかにだ。神仏の存在を認めているからこその考えだった。
「そう考えておられるのだ」
「それはまた面白い御考えですな」
「どうも殿を知らぬ者はあれこれ言う」
「確かに。知らぬが故に」
「しかし知ればそうはならぬ」
丹羽は長きに渡って信長に仕えている。だからこそ言えることだった。
「殿をな」
「あれでお優しいのですが」
「言うこと、求めることは大きいがな」
だが情がないことはないのだ。むしろそれは大きいのだ。
「暴れられることも為されぬしな」
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