第六十話 四人衆帰順その五
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「そしてその甥を殺めるかも知れんのじゃぞ」
「兄は言いました」
帰蝶はだ。決意している顔で信長に話していく。
「御自身を土岐様の御子だと」
「ああ、あの話じゃな」
「はい、ですからもう」
「兄ではないか」
「私がそう思っていたとしても」
帰蝶はその麗しい顔に悲しいものを帯びさせて話す。
「兄上はもう」
「そうか。だからか」
「私は最早美濃に居場所はありませぬ」
「あるのは終わりだというのじゃな」
「そう思っています」
こう信長に話すのである。しかしだ。
信長はその帰蝶に笑ってみせてだ。こう彼女に告げたのである。
「いや、あるぞ」
「美濃ですか!?」
「そうじゃ。それはこれからできる」
そうだというのである。
「これからじゃ」
「これからですか」
「そうじゃ。わしは美濃を手に入れる」
こう帰蝶に言った。
「そしてそのうえでじゃ」
「そのうえで?」
「御主は美濃に入るのじゃ」
そのだ。美濃にだというのだ。
「わしと共にな」
「殿と共に」
「それでどうじゃ」
優しい笑みを浮かべてだ。妻に言うのである。
「それならいいと思うがのう」
「織田家としてですか」
「義父殿は御主を娘だと認めてくれておったな」
「はい」
そのことは確かだった。間違いない。
「ではよいではないか。しかもわしがおる」
「殿も」
「それで不満なら仕方ないがな」
「いえ」
信長のそうした話にだ。帰蝶は。
真剣な顔になりそうしてだ。こう信長に述べたのである。
「私は決して」
「そうしたことはないか」
「斉藤道三の娘です。そして」
「わしの妻じゃな」
「それでどうして不満に思いましょう」
こう言うのである。
「私は。それでは」
「そうじゃ。共にな」
二人で美濃に入ろうというのだ。そしてだ。
信長はその帰蝶にだ。こんなことも言った。
「そしてそれからもじゃ」
「美濃に入ってからもですか」
「言ったな。わしは天下を統一する」
ここで信長の目が光る。
「そしてその居城にはそなたが絶対におる」
「殿と共に」
「左様、そうなるからな」
「ですか。では私は」
「憂いはいらぬ」
不要だというのだ。そうしたものは。
「全くな」
「では何が必要かというと」
「笑えばいいのじゃ」
これが信長の言葉だった。
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