第五十九話 一夜城その十一
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その報を聞いてだ。多くの者は驚いた。しかしだ。
信長だけは楽しげに笑ってだ。こう言ったのである。
「ははは猿め、言うだけのことはあるわ」
「驚かれてませんか」
さしもの信行もだ。全く動じていない兄に唖然とした顔で問うた。
「この事態に」
「いや、驚いておるぞ」
信長は笑って弟にこう返した。
「驚いた顔の御主を見てじゃ」
「それがしをですか」
「そうじゃ。御主はいつも澄ました顔をしておるがそうした顔もできるのじゃな」
「兄上に驚いているのです」
信行は何とか表情をだ。いつものものにしてから兄に答えた。
「これだけのことで動じておられぬからです」
「そのわしに驚いたのか」
「左様です」
「では猿のしたことには驚いておらぬのか」
「驚いてはいます」
それはあるというのだ。
「ただです」
「ただとは?」
「顔に出す程のものではありませんでした」
木下の一夜城についてはだ。信行の中ではそうだったのだ。
しかしだ。家臣達が驚く中で全く動じておらず笑いさえした兄にはというのである。
「兄上は。昔からですが」
「こうした事態は考えておらんかった」
「それでもですか」
「そうじゃ。ここで驚いては何にもならん」
こう言うのであった。弟に対して。
「ましてやこれ位では驚かぬ」
「左様ですか」
「そしてじゃ」
ここまで話してだ。あらためてだ。信長は信行に告げた。
「よいか。城ができたならじゃ」
「出陣ですか」
「その前に美濃の国人達にさらに文を送れ」
そうせよというのである。
「とりわけ三人衆と不破にじゃ」
「あの四人に」
「そうじゃ。文を送り織田につくことを促せ」
信長は次々に言う。
「わかったな。すぐにじゃ」
「わかり申した。それでは」
「あの城ができればじゃ」
信長のその目が鋭いものになった。
「美濃は大きく動くからのう」
「動くそのはじめにですか」
「うむ、一斉に文を送りじゃ」
そうしてだというのだ。動揺する国人達に対して。
「わしにつく様に促す」
「只でさえ斉藤を見限っている時にそれは」
「効くな」
「かなりのものかと」
信行もそのことは容易に察することが出来た。それで言うのだった。
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