第五十九話 一夜城その十
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「そして墨俣に城を築けばじゃ」
「そのことが余計に早まる」
「うむ。大きいぞ」
木下はこう言うのである。
「何しろ王手じゃからな」
「それだけのものがありますな」
「国人はさらに離反し」
そしてだ。さらにだった。
「斉藤の直臣達も去ってこちらに来る者が出て来る」
「龍興殿は相変わらずらしいですからな」
酒色に溺れ続けている。そうした主君ならばだというのだ。
「それではですな」
「余計に離れる者が増えるわ」
「ですな。まことに斉藤は」
「明日の朝終わる」
まさにだ。墨俣に城が建った時にだというのだ。
「その時にじゃ」
「さすれば」
「うむ、かかろうぞ」
こうしてだった。彼等はすぐに城を築きはじめた。確かに簡単でいいがそれでも城を築くのだ。その仕事は大急ぎでありしかも総出で行われた。
だが、だ。朝もやの中にだ。
墨俣に城が浮かび上がる。その中にいてだ。
木下は満足した笑みでだ。自分の弟と蜂須賀に言った。
「これでよしじゃ」
「うむ、まさかじゃ」
蜂須賀は驚きの言葉から述べた。
「本当にやれるとはのう」
「思わなかったか」
「当たり前じゃ。一夜でじゃぞ」
このことをだ。木下自身に告げる。
「城を。外見だけとはいえじゃ」
「ははは、御主もそう思うか」
「また無茶をやる」
蜂須賀はこうまで言う。
「こんなことははじめて見たわ」
「一夜でやるとは思っておらんかったな」
「誰も思わぬわ」
「そこじゃ。これは秀長にも言うたが」
その秀長も見ての言葉だった。
「誰も思わぬな。一夜で城が出来るとは」
「そこにあるというのじゃな」
「はい、その通りです」
秀長がここで蜂須賀に話す。
「兄上はその誰も思わぬことをです。あえて」
「やってみせたというのか」
「左様です。それがしも驚きましたが」
「成程のう。わし等は驚いただけで済むが」
蜂須賀は自然に北の方を見た。そうしてそこにあるものを見るのだった。
「斉藤は驚いたどころではなかろう」
「ここに来るにはその驚きが消えてからじゃ」
「では時間ができるな」
「その間に確かな城にしておく」
秀長に話したことをだ。またしても蜂須賀にも話すのだった。
「かなりの敵が来ても持ち堪えられる城にな」
「そして兵も入られる城にか」
「する。その間にな」
木下は確かな顔で蜂須賀に話していく。
「とにかくじゃ。これは大きいぞ」
「そうじゃな。稲葉山の城を攻められる様になった」
墨俣に城を築きだ。それによってである。
「猿、よくやったのう」
「ははは、褒めても出るのはわしの笑顔だけぞ」
「そんなものはいらんわ」
笑ってだ。お互いに言い合う。
「いるのは酒で充分じゃ」
「酒か」
「それか今
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