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戦国異伝
第五十九話 一夜城その六
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「御主等は結構仲がいいように思えるが」
「ううむ、わしはじゃ」
「御主はまことに嫌いな者には容赦せん」
 柴田が嫌うのは卑怯、未練、弱いものいじめといった類である。そうしたことを見ても彼が生粋の武人であることがよくわかる。
 その彼がだ。まことに嫌いな相手にはどうするかというと。
「それこそ性根を叩き直すところじゃな」
「下種は大嫌いじゃ」
 実際にこう返す柴田だった。
「弱いものをいたぶって何が面白いのじゃ」
「力を使うのなら戦場でじゃな」
「戦場で思い切り暴れるのがいいのじゃ」
 柴田は毅然として佐久間に述べる。
「例え犬や猫でもいじめるのは好まぬわ」
「そうじゃな。しかしあの猿はじゃ」
「弟を常に大事にしておる」
 秀長のことであるのは言うまでもない。木下は常に己の弟を傍に置きそのうえでだ。兄として何かと世話を焼いているのである。
 それは柴田も見ている。だからこそ言うのである。
「あれは見事じゃ」
「それにじゃ。何かとじゃ」
「御母堂も大事にしておるとか」
「大層な」
「親孝行はいいことじゃ」
 柴田らしい言葉であり考えだった。実に。
 そのことを認めてだ。あらためて木下について言う彼だった。
「猿のそれは何度も褒めるだけの価値はある」
「ほれ、実際にそうではないか」
「しかしじゃ。あ奴はおちゃらけておるからのう」
 ここではその厳しい顔をさらに厳しくさせるのだった。
「それが好きになれぬ」
「まあ確かにあ奴は何かとおちゃらけるのう」
「わしはそうしたことは好まぬ」
 生真面目だった。何処までも。
「慶次もそうじゃがな」
「慶次の悪戯は余計にじゃな」
「あれは殴らんと気が済まぬ」 
 実際にその都度殴っている。柴田は彼にも容赦がない。
「そしてそれは猿もじゃ」
「しかし真の下種にはもっとやるのう」
「確かに。殴って懲らしめるのと叩き直すのとではまた違う」
「そしてもっと言えばじゃな」
「成敗するのとも違う」
 柴田は信長と同じくそうした悪党には容赦がない。実際にその拳や刀で盗賊や追い剥ぎといった者達を何度も成敗してきている。
 だからだ。こう言うのだった。
「猿も確かにおちゃらけてはおるがじゃ」
「弟思いで孝行息子だしのう」
「妙に愛嬌もある」
 それもあるというのだ。
「人たらしというのか」
「憎めぬか」
「好きではない」
 柴田はこの一線は譲らなかった。いささか意地めいたものも見せている。
「しかしそれでもじゃ」
「やはり憎めぬか」
「どうにもな。殿にも忠義を尽くすしのう」
「気配りもあるしな」
「あ奴、ここでさらに功を挙げればじゃ」
「いよいよ部将じゃな」 
 それになるとだ。佐久間は言った。
「そうなると実に大きいぞ」

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