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戦国異伝
第五十八話 墨俣での合戦その十二

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「決めるか」
「いや、待て」
 しかしだ。その不破にだ。稲葉が言った。
「まだそれは早い」
「早いと申すか」
「そうじゃ。確かに墨俣は手に入れた」
 それは確かだという。だが、だ。
 それだけではないともだ。彼は言うのであった。
「しかしそれだけで稲葉山は陥ちぬぞ」
「そうじゃな。あの城は容易には陥落ちぬ」
 氏家もここで言う。
「例え三万の兵で一気に攻めてもじゃ」
「だからじゃ」
 最後に安藤が口を開いた。
「まだ見よう。そうじゃな」
「そうじゃな、か」
「ではここでどうするか」
「それで決めるべきというのじゃな」
「左様じゃ。あの墨俣に城でも築けば」
 どうかとだ。安藤は今言った。
「それで決まりじゃ」
「しかしそれはじゃ」
「難しいぞ」
 その安藤の言葉にだ。稲葉と氏家が言った。
「稲葉山と目と鼻の先じゃ」
「それではじゃ」
 難しいとだ。二人は言う。しかしだ。
 安藤はそれでもだとだ。その二人に返した。
「しかしそれをあえてやってこそじゃ」
「織田殿はこの美濃を治めるだけの力量がある」
「そういうことか」
「そして天下もじゃ」
 安藤はさらにだ。大きく言った。
「織田殿は天下を目指すと言っておられるがじゃ」
「その器かどうか」
「それも見ることになるか」
「天下とはのう」
 不破が唸る様にして述べる。
「織田殿も大きく出たわ」
「しかしじゃ」
「しかしか」
「そうでなくてはかえって駄目じゃろうな」
 安藤はその不破にも言うのだった。
「これからはな」
「では織田殿が天下を狙える器かどうかもか」
「ここで見定めようぞ」
 安藤がまた言う。
「よいな」
「ふむ、わかった」
 不破もだ。安藤のその言葉に頷く。
 そうした話をしてだった。四人は。
「では墨俣に城を築かれれば」
「そこで決めるか」
「そうじゃな」
「我等も」
 彼等は信長を見ていた。これからの彼をだ。そしてだ。信長はそのことは知らないがそれでもだ。次の手をだ。確実に打とうとしていた。


第五十八話   完


                   2011・9・16
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