第五十八話 墨俣での合戦その五
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そうしてだ。彼もだった。
前田はだ。先陣の中に入っている。馬にこそ乗り槍も持っているがだ。それでもだ。
陣羽織は羽織っていない。将ではなく完全に一介の浪人としてだ。彼はそこにいる。
そしてだ。その彼を見てだ。
佐々がだ。こう柴田に囁いた。
「さて、来ていますが」
「それでじゃな」
「後はどういった戦をするかですね」
「槍の又左の本気の戦が見れるぞ」
そうだとだ。柴田は言うのである。
「一人の男としてのな」
「それがですか」
「そうじゃ。見られる」
柴田は言い切った。
「そして必ずじゃ」
「帰参ですな」
「それを果たす」
「命を落とすことは」
戦では常だ。まさに生きるか死ぬかの場所だ。佐々自身もそうした中に生きてきている。だからこそ柴田に対してこう問うたのである。
「考えておられぬのですか」
「あれがそう簡単に死ぬか」
これが柴田の返事だった。
「又左がじゃ」
「いやいや、それはです」
「ないじゃろ」
「はい、ありませぬ」
こうだ。佐々も自然と答えた。
「あの男はそうそうやられるものではありません」
「だからじゃ。それはない」
死ぬことはだ。有り得ないというのだ。
「あ奴の槍は御主も知っておろう」
「鬼です」
佐々とてだ。織田家において屈指の手繰れだ。近頃では戦における指揮においても目覚しいものを見せている。その彼の言葉である。
「槍の又左の名は伊達ではありませぬ」
「慶次とやり合っても五分じゃ」
柴田はまた言った。
「だからじゃ」
「死ぬ筈がありませんな」
「わし等は見るだけじゃ」
それだけだとも言うのである。
「あ奴の鬼神の如き暴れ様をな」
「ではあ奴は間違いなくですな」
「戻る」
織田家にだ。そうなるというのだ。
「間違いなくじゃ」
「功を挙げたうえで」
「そうなる。さて、わし等はじゃ」
「はい、我等は」
「戦に勝とうぞ」
彼等はだ。それを目指すというのだ。
「よいな、斉藤の兵達を蹴散らす」
「さて、美濃の兵はかなり弱くなっているそうですが」
「道三殿あってこそだった」
こう言ってだ。柴田は。
ふと残念そうなものを己の目に宿らせる。そうして言うのであった。
「あの蝮殿のな」
「蝮殿が鍛えておられたからこそですな」
「そうじゃ。美濃の兵は強かった」
「しかし今は」
「大したことはない」
柴田は敵を冷静に見て述べた。
「勝てる相手ぞ」
「我等ならですね」
「数も多い。具足や武器も勝っておる」
それに加えてだった。今織田にあるのは。
「しかも将もじゃ」
「おまけに総大将が殿ですな」
「これで負ける道理はない」
柴田は言い切る。
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