第二十一話 聡美と高代その九
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彼女だけがわかる理由、その理由から小さくなった声でだ。聡美は答えたのだった。
「そうした方を一柱」
「柱?」
「いえ、一人です」
高代の声にすぐに言い換えてだった。また言う彼女だった。
「知っています」
「その方もまたですね」
「心から愛している方がいまして」
「その方を手に入れる為にですか」
「そうです。多くの方を犠牲にされています」
「成程。私と同じですね」
聡美が話したその柱と最初呼ばれた誰かがどういった者かはわからなかった。だがそれでもだ。
高代はその誰かに自分に似たもの、もっと言えばそっくりなものを感じてだ。
そのうえでだ。自嘲を含んだ笑みになり述べたのだった。
「その方は」
「他の誰かを犠牲にして夢を適えようと思われているからですか」
「はい、そうです」
それ故にだとだ。また答える高代だった。
「その方は」
「そうですね。ですが」
「ですが?」
「高代さん、いえ他の方よりも」
今度は悲しい目になりその顔を伏せさせてだった。
聡美は俯いてだ。そうして彼に話すのだった。
「その方は悲しい方なのです」
「私は別に自分を悲しいとは思っていませんが」
「そうですか。しかしです」
「その方はなのですね」
「とても。悲しい方なのです」
こうだ。その伏せた顔で言うのだった。
「長い間。果たせないことを何度も繰り返させています」
「そうしてですか」
「諦めてはおられません。ですがその為に」
「多くの人達がですか」
「犠牲になっています」
こう述べる聡美だった。
「本当に多くの方がです」
「それも長い間」
「魂は一つでも」
ついついだ。また言ってしまった聡美だった。高代は気付いていないにしても。
「それでも。命は幾つもです」
「失われてきたと。その方の為に」
「そうなのです」
「どういったことなのかはわかりませんが」
それでもだとだ。高代はだ。
そのパスタを食べつつだ。そして聡美に答えたのだった。
「その方は確かに悲しい方の様ですね」
「私にとっては姉の様な方ですが」
「姉、ですか」
「実は双子の兄が一人います」
このこともだ。聡美は話してしまった。しかし高代にとってはそれは日常的なことであり特に何も不思議に思うことのない、そうした当然のことだった。
だから高代は何も言わなかった。そしてだ。
聡美はだ。さらに話すのだった。
「ですがお兄様とはです」
「仲が悪いのでしょうか」
「いえ、そうではないのですが」
「兄弟仲は悪くないのですか」
「それはありません」
決してそうではないというのだ。
しかしだ。それでもだと言う里美だった。
「ですがお兄様と私はやはり」
「男性と女性ですね」
「違います。何もかもが」
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