第五十八話 墨俣での合戦その二
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弟にだ。こう告げたのだった。
「織田について国人でこの辺りに詳しい者もおるな」
「はい、います」
その通りだとだ。秀長も答える。
「何人か」
「それに船もある」
九鬼が用意してあるだ。それもだというのだ。
「後は人さえいればじゃ」
「?兄上一体」
「ちと名乗り出てみるか」
こうだ。木下は言っていくのだった。
「そこで」
「また何か御考えですか」
「考えているからこそ言うのじゃ」
これが木下の弟への返事だった。
「まあ墨俣での戦に勝ってからじゃ」
「そうしてそのうえで」
「うむ、殿に名乗り出てみる」
「兄上はよく自ら死地に赴かれますな」
「結局のう。そうしなければ多くのものは得られん」
それでだというのだ。
「だからよ」
「確かに。危険なことを果たしてこそですね」
「功も挙がるし報酬も貰える」
その報酬こそがだ。木下にとっては最も大事なのだ。
そして何故大事なのかもだ。それがわかっている弟に対してだ。あえてであるがそれでもだ。ここでしかと話をするのであった。
「そうすればおっかあ、いや母上もじゃ」
「楽になられますな」
「親孝行してこそじゃ」
木下は切実な顔で言う。
「そうしてこそじゃ」
「それでこそですね」
「人は何かをする価値がある」
「御自身の為には」
「無論わしとて贅沢はする」
木下はそのことも否定しない。
「折角名を挙げたのじゃ。一介の百姓の倅からな」
「こうして織田家において陣羽織を着られる様になった」
「さすればじゃ。贅沢をしたい」
その望みも言う。しかしだ。
それ以上にだ。母が大事だと言うのである。
「母上をのう」
「我等をここまで育てて愛してくれた母上に」
「左様、わしは思いきり楽をさせてやりたい」
「その為にですね」
「わしは功を挙げる」
「そして金を手に入れ」
功を挙げれば褒賞として多くの金がもらえる。それはまさに一つになっていた。そしてその金でだ。彼は彼の母を、というのである。
「母上をもっともっとじゃ」
「見事です」
秀長はその兄に言った。
「私よりも母上を尊ばれることは」
「わし一人なぞどうとでもなる」
彼一人ならばだというのだ。
「これまで針を売っておったがそれも結構な金になった」
「だからですね」
「何かを売って暮らせばそれだけで結構な金が手に入る」
木下にはそうした才があるからだ。それにつきた。
「しかし武士になり戦で功を挙げれば商売とは比べものにならん」
「あわよくば一城の主にもですね」
「なれる」
まさにだ。そこまでだというのだ。
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