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戦国異伝
第五十七話 前田の怒りその十
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の四人には入らぬ」
「百姓の出だから、ではないですね」
「猿は久助以上に独特じゃ」
 それ故にだというのだ。
「だから四天王とかいうよりは」
「一人侍でしょうか」
「そうなるのう、あれは」
「だからそうはなりませんか」
「四天王となると一人残る」
 前田は言った。
「最後の一人、果たして誰がなるか」
「それはわかりませぬか」
「この三人に並ぶとすれば余程のものじゃ」
 戦だけでなく政においてもだ。かなりのものがなければならないというのだ。
「権六殿や五郎左や久助と並ぶとなると」
「あなたはどうでしょうか」
 あえてだ。まつはだ。浪人になった夫にこう言ったのである。
「槍の又左は」
「そうなるよう励む。しかしじゃ」
「しかしですか」
「あそこまでなるのは容易ではなかろう」
「それはですね」
「うむ、容易ではない」
 前田とて己のことはわかっている。むしろその程度のことがわからぬ者を用いる程だ。信長は愚かではない。人を知り己を知ることは第一だからだ。
 それでだ。前田は己についてまつに話すのだった。
「わしにはそこまでの器はないわ」
「さすれば誰が残る一人になるでしょうか」
「誰か出て来るかそれとも」
「それともですか」
「やって来るかじゃな」
 その可能性もだ。前田は否定しない。
 そうしてだ。また言う彼だった。
「まあわしは今はじゃ」
「次の戦に馳せ参じですね」
「汚名を返上する」
 それはだ。くれぐれと言ってだ。それでだった。
 湯に入り酒を抜きに行くのだった。そのうえでだ。すっきりとなってだ。そうしてそのうえで一日をはじめだ。戦に思いも馳せるのであった。


第五十七話   完


                 2011・9・8
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