第五十七話 前田の怒りその八
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「過ぎたるものを持ち過ぎじゃな」
「そう思われるのならです」
そうしたことを言う前田にだ。まつは今度はこう話した。
「この度の戦では」
「うむ。汚名を返上するぞ」
「小者を斬ってのことなら大物の首を取るのです」
「大物のか」
「あなたならできましょう」
まつもわかっていた。前田の腕は。
「槍の叉左殿なら」
「言ってくれるな。では次の戦ではじゃ」
「はい」
「思う存分暴れてやる」
そしてだ。そのうえでだった。
「功を挙げてやる。戦を決める程のな」
「そう為さいませ」
「さて、そう決めればじゃ」
ここまで話すと満足した顔になった。それでだ。
こうだ。まつに対して言った。
「寝るか」
「また明日でございますね」
「今日はこれでよい。明日になればじゃ」
「出陣の備えをして」
「出陣の用意はそのままする」
浪人であってもだ。それでもだというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
こうした話をしてだった。前田はまつと共に寝た。その次の朝は。
頭が痛かった。これは間違いなくだった。
「昨日は随分飲んだからのう」
「二日酔いですか」
「うむ、やってしまったわ」
こうだ。起き上がりながらだ。前田は苦しい顔で話すのだった。
「参ったのう」
「左様ですか。では朝は湯漬けで宜しいですね」
「そうするか」
そんな話をしたうえでだ。朝飯を食おうとする。ところが。
朝早くにだ。また門からだった。
今度はだ。女の声がしてきた。
「叉左殿、おまつさん」
「むっ、あの声は」
「ねね殿」
前田とまつは二人の話を聞いてすぐに言った。
「今度は奥方とは」
「どういうことでしょうか」
「叉左殿、共に如何でござろう」
今度は木下の声がしてきた。
「湯でも」
「湯?」
「そう仰いましたね」
「うむ、言った」
前田とねねは布団から起き上がりだ。そのうえで顔を見合わせて話す。
「朝からそれか」
「またそれは贅沢な」
「二日酔いでござろう」
それを見越しての言葉だった。今の木下の言葉は。
「さすれば酔いを消す為にも」
「湯か」
「如何でござろう」
「猿め、気を使っておるのか」
前田は木下と親しい。それで彼の気質を幾分かわかっている。頭の回転が速いだけでなくそうした気配りもかなりのものであるのだ。
だからだ。前田は言うのだった。
「わしに」
「今度はどうされますか?」
ねねがその夫に問うた。
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