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戦国異伝
第五十七話 前田の怒りその六
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「それに菓子じゃな」
「では今は」
「さて、何か甘いものはあるかのう」
「では果物でも」
「食うとしよう」
 こうした話をしてだった。彼は柴田に言ってだった。
 前田の出仕を止めてそれで終わりにした。しかしだ。
 浪人になった前田は己の屋敷でだ。小さくなっていた。大柄な身体を小さくさせて落ち込んでいる彼にだ。気丈そうな凛とした顔の黒髪の女がだ。
 毅然としてだ。こう言うのだった。
「そんなに落ち込んでも仕方ありますまい」
「仕方ないと申すか」
「左様、小者を斬って殿に怒られてですね」
「そうじゃ。どうしてもあの茶坊主を許せんかったのじゃ」
「小者を斬っても何にもなりませんが」
 女もだ。このことは言った。しかしだ。
 すぐにだ。前田にこうも言ったのであった。
「しかしそれでもです。塞ぎ込んでもはじまりません」
「ではどうすればよいのじゃ」
「すぐに戦ですね」
 女が言うのはこのことだった。
「それならです」
「戦に加わり武勲を挙げてか」
「左様です。その功を殿に認めてもらえばいいのです」
「そうすべきじゃな」
「はい、ですから」
「落ち込むことはないか」
「ありません」
 まさにそうだというのだ。
「ですから。次の戦は一介の浪人として参加されて戦われればいいのです」
「わかった。ではじゃ」
「そうされて下さい」
「そうするぞ。しかしまつよ」
 前田はだ。ここでだ。
 己の女房である彼女を見てだった。それで言うのだった。
「御主は強いのう」
「強いと言われますか、私が」
「この状況であっさりとそう言えるのは強いからじゃ」
「これ位でないと務まりませぬ故」
「務まらぬ?」
「はい、槍の叉左の女房は」
 にこりと笑ってだ。それでだ。
 その前田にだ。こう言ったのだった。
「ですから」
「言うのう。ではわしは次の戦に加わるぞ」
「そうして功を挙げられてですね」
「うむ、また織田家に戻る」
 完全にだ。立ち直ってだ。前田はおまつに応える。
 そうしてだった。彼は庭に出て自慢の槍を振るった。それが終わり一風呂浴びた後でだ。
 不意にだ。屋敷にだ。
 誰かが来てだ。こう門の前で言って来たのだった。
「叔父御はおられるか?」
「あ奴は」
 その声を聞いてだ。すぐにだった。前田は誰が来たのかわかった。
 それでだ。門のところに飛んで行くとだ。慶次がいた。その彼に問うたのだった。
「一体何の用じゃ」
「いや、実は釣りに行って来まして」
「釣りにか」
「それで鰻を獲りまして」
 見ればだ。籠の中にだ。太った大きな鰻が何尾か動いている。それを前田に見せながらだ。慶次は陽気に笑って言うのである。
「一緒にどうでござるか?」
「御主、まさか」
「どうでござろう。
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