第五十七話 前田の怒りその四
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「御主の力はその頭とそれに」
「それに?」
「人たらしじゃ」
「人たらしでございますか」
「まず言おう」
前置きしてだ。森は言った。
「確かに御主は小さいし猿そっくりじゃ」
「ですから困っています」
「しかしそれでもじゃ。御主を見ているとどうもじゃ」
「何かありますか」
「惹かれるものがあるのじゃ」
「それがしに惹かれますか」
「そうじゃ。殿の場合はお傍にいて共にあらゆることを為したいと思う」
それが信長の魅力なのだ。彼はその日輪の如き魅力で多くの者を惹き付け離さない。それは森も同じであるし木下もなのだ。
だが木下にもだ。魅力はあると森は言うのである。
「しかし御主の場合はじゃ」
「どうでしょうか、それがしは」
「何かこう力になりたいと思わせる。それに」
「それにですか」
「御主の話し方が実によい」
木下のそれがだというのだ。
「それで共にいたいとも思うのじゃ」
「それがそれがしの人たらしでございますか」
「殿は日輪で御主は天下無双の人たらしじゃ」
「天下無双ですか」
「頭とその人たらしがある」
まさにだ。その二つがあればだというのだ。
「必ずや。多くのものを果たすぞ」
「そうであればいいのですが」
「現にじゃ。今御主は侍大将じゃ」
かなりの身分であることは言うまでもない。流石に平手や柴田程ではないにしろだ。
「一介の百姓からそうなったではないか」
「運がよかったのです」
「御主は運もいいがな」
木下にはそれもあった。運もだ。
だがそれだけではなくだ。やはりその二つがあるというのだ。
それでだ。まただった。森は木下に述べていく。
「その二つがある。武芸よりも遥かに凄いものがな」
「ではその二つを使い」
「果たせ。よいな」
「わかりました」
木下も頷く。その後でだ。
森は今の本来の話であるだ。前田の話を再開させた。その話は。
「わしの予想じゃが叉左はじゃ」
「動かれますか」
「あの茶坊主は斬られる」
そうなるというのだ。前田によってだ。
「権六殿もわかっておられるであろうな」
「しかし権六殿は叉左殿を止められましたが」
「わかっていて止められたのじゃ」
「そうされたのですか」
「権六殿は豪快な様で心配りも出来る」
一見武骨なだけに見えるがそれだけではないのだ。その中に繊細なものもある。人に対する気遣いにおいても中々のものなのだ。
それでだ。あえてそうしたというのだ。
「わかっていてそれでも忠告されたのだ」
「あえてとは」
「あの茶坊主は所詮小者。小悪党じゃ」
「そうした悪党を斬るのは」
「確かに褒められたことではない。しかしじゃ」
「しかし?」
「叉左はその小悪党を斬り捨てることで多くのものを得る」
そうな
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