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戦国異伝
第五十七話 前田の怒りその一
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                第五十七話  前田の怒り
 織田軍はいよいよ墨俣に向けて出陣しようとしていた。しかしだ。
 その直前にだ。思わぬ騒動が起こったのだった。
 前田がだ。出陣を数日後に控えてだ。随分と怒っていた。
 その彼を見てだ。彼が加わる先陣の将である柴田が問うてきた。
「一体何を怒っておるのだ」
「全く。けしからん奴がおりまして」
 こうだ。前田は怒えいを露わにして言うのである。
「それで憤懣やるかたないのです」
「というと慶次ではないな」
「あれはあれでけしからん奴ですが」
 だがだ。慶次ではないというのだ。
 では誰かというとだ。それは前田自身が言った。
「あの殿の傍におる」
「殿の?」
「はい、ほんの茶坊主ですが」
「茶坊主位幾らでもおるだろう」
「只の茶坊主ではありませぬ」
 こうだ。その憤懣やるかたない顔で話す前田だった。
 それでだ。彼が言うには。
「殿のお傍にいるというだけで随分と偉そうにしており」
「そうした不心得者は何処にでもおるのう」
「いや、その中でもです」
 どうかというのだ。その茶坊主は。
「それがしに対しても何かと愚弄してきました」
「殿のお傍にいるから何もされないと思うておるのだな」
「そこまで知っていての姑息さがまた許せませぬ」
「ふむ。それで怒っておるのだな」
「左様です」
 まさにその通りだとだ。答えてだ。
 前田はさらに言った。
「今度何かあればその時は」
「その茶坊主を斬るか」
「そうしないと気が済みませぬ」
「ふむ。確かに殿のお傍に小悪党なぞ置けぬ」
 前田が嘘を言っていないのと見てからだ。そのうえでだ。
 柴田はだ。こう彼に告げた。
 しかしだ。それと共にこうもだ。彼に対して言った。
「しかしじゃ」
「しかしとは」
「御主は間も無く出陣する」
 柴田が彼に言うのはこのことだった。
「しかも今度は将じゃ」
「はい、権六殿の下で」
「流石に将になってはこれまでとは違う」
 そのだ。傾奇者のままではというのだ。
「軽挙妄動は慎め」
「だからですか」
「そうじゃ。その茶坊主もやがては殿に見抜かれる」
 信長の聡明さは最早言うまでもない。人を見る目については最早神技と言ってもいい。柴田も前田ものことはよく知っていることだ。
 だからだとだ。柴田は今前田に言うのである。
「だからじゃ。少なくとも出陣前は何もするな」
「では戦から帰れば」
「その茶坊主が誰かわしに言え」
「権六殿に」
「わしが自らその茶坊主を懲らしめるか殿ににお伝えする」
 そうしてだというのだ。
「それで済む話じゃ」
「ではわしは」
「小悪党に怒るのはわかる」
 それはだというのだ。
「しかしそれでもじゃ」
「茶坊主
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