第五十六話 竹中の意地その十一
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「筒井家とのことはそれからじゃ」
「では。大和自体にも今は」
「美濃じゃ」
とにかくだ。この国を攻めるのに専念するという信長だった。
「それからじゃ。そういうことじゃ」
「畏まりました」
「御主は留守を守ると共に政に励め」
ただだ。留守を守るだけではないとだ。信長が弟に告げることは多かった。
「尾張に伊勢をより豊かにせよ」
「畏まりました」
「堤に道も築け」
このことも忘れていなかった。
「よいな、金は幾らかかってもよいぞ」
「金は派手には使いませぬ」
金の話にはだ。信行はこう返した。
「あくまで必要なだけを使いますので」
「まあ例えじゃ。御主も爺と同じじゃな」
信行はにこりともしないが信長はだ。少し苦笑いになりそのうえでだ。その弟に対して再び言っていくのだった。その言うことは今度はこうしたものだった。
「堅苦しいのう」
「いけませぬか」
「よいわ、堅苦しくない勘十郎なぞ怪談じゃ」
まさにだ。それに値するというのだ。
「怖くて仕方ないわ」
「怪談と申しますか」
「明の怪談がこれがまた面白い」
怪談についてもだ。信長は詳しかった。
それでだ。こんな話もするのだった。
「狐の話がとかく多くてのう」
「狐。そうでござるな」
ここで言えたのは雪斎だった。
「あの国は唐の頃より狐が多いですな」
「その頃から狐の話ばかりになるか」
「はい、本朝では狸も多いですが」
この国ではだ。狐だけではなかった。特に室町からだ。狐と狸の話が御伽草子としてだ。異様なまでに増えていっているのである。
それも話してだった。雪斎は。
「明はやはり狐ですな」
「そうなるな」
「狐は色々なことをします」
明の狐は特にそうだというのである。
「人と同じ様に生きたりもしますし」
「狐が」
信行はその話を聞きだった。
「あの国ではそうしているのですか」
「面白いであろう」
「興味深いですね」
「そうしたことを知るのもよい」
何もだ。杓子定規だけではないというのだ。
「真面目もよいがそうした様々な面白きことを知るのもじゃ」
「よいのですね」
「書ならわしが持っておる」
信長の蔵書は多い。幼い頃から学んでいるのだ。
だから持っていてだ。それをだというのだ。
「何時でも貸すぞ」
「左様ですか。それでは」
こうした話もしてだった。織田はまた動こうとしていた。だがその直前で思わぬことが起こった。それもまた一つの試練であった。彼等にとっての。
第五十六話 完
2011・9・2
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