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戦国異伝
第五十六話 竹中の意地その十

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「どうも我が家に好意的な様ですが」
「筒井というとじゃ」
「はい、大和の大きな家の一つです」
「松永と張り合っておったのう」
 信長はその筒井について述べていく。
「松永は一応は三好におるから必然的に三好と敵対することになるな」
「その筒井殿が我が家と誼を通じたいやも知れませぬ」
「左様か」
「どうされますか」
「その筒井家をじゃな」
 信長は弟の言葉を聞いてだ。ここではだ。
 考える顔になりそのうえでだった。
 静かにだ。こう述べたのだった。
「おそらく筒井家としては庇護者が欲しいのじゃ」
「後ろ楯がですか」
「左様、松永は強いだけではない」
 それに加えてなのだ。松永の恐ろしいところは。
「何をしてくるやわからぬからのう」
「主家を乗っ取ろうとしていると言われておりますな」
「蠍じゃからな」
 この通り名がだ。まさに松永を象徴していた。
「義父殿が蝮ならあ奴は蠍じゃ」
「共に毒を持っておりますな」
「蠍に毒は恐ろしいという」
 この国にはいないのでこのことは実感としてはだ。信長にしても家臣達もだ。どうしてもわからないことだった。しかしそれでもだった。
 蠍という言葉自体にある禍々しさは感じてだ。そうしてだった。
 信長も話した。信行も家臣達も聞くのだった。
「その蠍を常に前にしておるからじゃ」
「筒井殿は我が家と誼を通じようと考えておられる」
「そうなのですか」
「おそらく美濃を手に入れれば」
 そのだ。信長が狙う美濃をだ。手に入れればどうなるかともいうのだ。
「そうした家が増えるであろうな」
「大和だけでなく近畿全土に」
「そうなりますか」
「筒井家の様に三好に歯向かう家は多い」
 そうした意味で三好の近畿掌握は当初から万全ではなかった。しかもだ。
 それに加えて今は主である三次長慶が病に臥せり松永と三人衆の対立が激化しようとしている。そうした中ではだ。そうした家はだった。
「おそらく。強い家が上洛すれば風の如くなびこう」
「その家にですか」
「三好に歯向かう家は」
「今の三好でこのまま争えば破滅よ」
 信長は三好のそうした状況やこれからのことも見ていた。
 それでだ。こうも言うのだった。
「己の身を喰ろうても傷つくだけじゃ」
「何にもならぬ」
「それはその通りですな」
「上洛した時のことはもう考えておる」
 この辺りは見事な信長の先見である。
「またその際言おう」
「わかりました」
 信行が応えて頭を垂れる。そうしてだった。
 そのうえでだ。筒井のことは。
「今暫くはこちらからは動きませぬか」
「松永は三人衆との争いに忙しい」
 同じ大和にいて対峙している筒井との争いよりもだ。松永はそちらに気を取られているというのだ。
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