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戦国異伝
第五十六話 竹中の意地その二
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「龍興様は焦っておられるな」
「はい、家臣の方々も」
 どちらもだとだ。彦作も言う。
「予想以上に」
「いや、予想通りじゃ」
 そうだとだ。竹中は弟に返す。
「ああなられると思っておった」
「左様でしたか」
「焦らぬ方がおかしい」
 そうだともいうのだ。
「何しろ居城を奪われたのだからな」
「確かに。そうなれば」
「誰でも焦る」
 また言う竹中だった。
「むしろ焦らなければじゃ」
「そうであれば」
「龍興様は恐ろしい方になる」 
 そうなるというのである。竹中の言葉ではだ。
「こうした事態に全く動じられないとなるとな」
「確かに。そうした方なら」
「わしも最初からこうしたことはしておらん」
 奇略を使ってだ。そうすることもないというのだ。
「それだけの方ならな」
「しかしそうではないからこそ」
「そうじゃ。こうした」
 まさにそうだというのだ。
 そしてだ。さらにだった。竹中はこんなことも言った。
「大きな方なら焦らずそして広いものを見られる」
「ですな。それができているのは」
「織田殿か」 
 やはりだ。彼だった。
「織田殿程であればそれができる」
「しかし龍興殿は」
「無理じゃ」
 最初からわかっていてもだ。それでもだった。
「あの方はそうした方ではない」
「そしてこのことにどうされるでしょうか」
「何もできぬ」
 断言だった。やはりわかっているといった感じだ。
「全くじゃ」
「では我等はこれからどうされますか」
「少し経ってから出る」
「出られるとは」
「この城を出る」
 そうするというのだ。この稲葉山の城をだ。
「そうして龍興様にお返しする」
「それでは同じではないのですか?」
 その話を聞いてだ。彦作は。
 怪訝な顔になりそのうえでだ。兄に問い返した。
「何もしなかったのと」
「いや、違う」
 竹中はそれは違うと述べた。
「それはまたじゃ」
「いえ、ですがお返しするとなると」
「こうして居城を奪われ何もできなかったとなるとじゃ」
 竹中がここで話すのはこのことだった。
「どう思われる」
「国の内外で、でしょうか」
「そうじゃ。どう思われるか」
「その名声は落ちます」
 すぐにだ。彼も兄に答えた。
「間違いなく」
「それもかなりじゃな」
「そうじゃ。それを覆ることができぬまでにじゃ」
「それはどうにもなりませんか」
「うむ。できぬ」
 まただ。こう言う竹中だった。
「覆せぬものになってしまう」
「只でさえ国人達が織田殿についていっている中でそれは」
「命取りになる」
 まさにだ。そうなるというのだ。
「斉藤氏は半分以上終わった」
「半分以上ですか」
「うむ、半分以上な」
「全てではないのですか」

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