第五十五話 美濃の神童その六
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屈託のない笑顔になってだ。その顔で竹中に返した。
「竹中様は気前がいいですな」
「そう思うか?」
「城におれば酒を飲まれるのはまず殿で」
酒色に溺れているだ。彼がだというのだ。
「殿が酒蔵を幾らも自身のものとされたので」
「御主等の口には入らぬか」
「どうも。そうなっております」
「左様か」
足軽からの話を聞いてだ。竹中は。
少し考える顔になってからだ。こう呟いたのだった。
「酒は百薬の長だがのう」
「よくそう言われておりますな」
「やはり必要なのじゃ」
人にだ。そうだというのだ。
「それを御一人のみで幾つもとは」
「殿ですから仕方ありませぬな」
この足軽は特に邪気もなく述べた。
「それもまた」
「御主の様に思う者だけならよいのだがな」
「違いますか」
「まあそれはよい」
この話はだ。これで止めるとしてだ。
そうしてだ。あらためてだ。
彼は城の中に入った。そのうえでだ。
その弟である彦作の寝ている部屋に入りだ。彼の枕元に寄り囁くのだった。
「来たぞ」
「おお、それではですな」
「早速行動に移る。その前にだ」
「何をされますか?」
「城の全ての酒蔵を開け」
こうだ。彦作に告げた。
「よいな。まずはだ」
「酒蔵をですか」
「殿の御命令だ」
そういうことにするというのだ。他ならぬ龍興の。
「わかったな」
「ではその様に」
「して具足と刀を持って来た」
「すぐに皆着替えて」
「城の全ての足軽達に酒をだ。ふんだんに振る舞いだ」
それからだというのだ。
「我等が動くぞ」
「そうされますか」
「そうだ。この城は最早陥ちたも同然」
竹中は言いながらだった。そうしてだ。
まずはだ。龍興の令だとしてだ。
城内の者達に酒を振る舞い飲ませた。すぐにだ。
誰もが酔い潰れてしまった。それからすぐにだ。
彼は弟も入れてだ。十六人でだ。城内の要所を固めた。そしてだ。
櫓に登りだ。法螺貝を鳴らしたのだった。
それを聞いてだ。己の住む場所にいた。龍興はだ。
丁度酒を飲み女達を侍らせていたがだ。その場でだ。
酔った赤い顔で周囲に問うたのだった。
「あの法螺貝は何じゃ?」
「櫓の方から聞こえてきますな」
「あれは」
「うむ。何じゃ」
「わかりませぬが」
わからないがだとだ。彼等は言うのだった。
「まあ大したことはありますまい」
「ただの間違いでしょう」
「足軽共が悪戯をしているのでしょう」
こう考えたのだった。
「戦やそうしたものではありますまい」
「ですからここは」
「そうじゃな。特に何も言うことはないな」
龍興は笑ってだ。そうしてだった。
酒を一杯一気に飲んでからだ。こう言うのだった。
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