第五十四話 半蔵の選択その十
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「御主と共にじゃ」
「茶室でその道を」
「しに行くぞ。よいな」
「それでは」
「茶はよいものじゃ」
信長はここでまた顔を綻ばさせて述べた。
「わしは酒が飲めんからな」
「左様ですな。殿は」
「民はよくわしに酒を献上に来る」
それだけ彼が領民から慕われているということでもある。しかしだった。
それでもだとだ。今度は苦笑いになって話す信長だった。
「だがわしはじゃ」
「全くですな」
「飲めん。しかし酒は来る」
「ではその酒は一体」
どうしているのか。蜂須賀は尋ねた。するとだ。
信長はだ。こう彼に答えた。
「わしが飲まずとも他の者達が飲むではないか」
「それがし達がですか」
「わしが飲めぬからといって他の者が飲んではならぬということはない」
信長が今言うのはこのことだった。
「だからじゃ」
「では城の酒には」
「そうしたものもある」
そうだというのである。
「御主達の酒はそうした民の酒も多いのじゃ」
「そうだったのですか」
「そうじゃ。そういうことじゃ」
まさにだ。そうだというのだ。
「だからじゃ。よく味わって飲む様にな」
「わかりました。さすれば」
「わしは自分が飲めぬからといって他の者に飲むなとは言わん」
そうしたこともだ。わきまえているのだった。
「意地の悪いことは好かん」
「左様でございますか」
「飲みたければ飲むといい」
信長はまた自分の考えを話す。
「わしは茶を飲む。それだけじゃ」
「殿はあくまで茶でございますか」
「うむ、美味いしのう」
こう言ってだ。笑いもするのだった。
「だからよ」
「しかし。酒以外にも飲むものが増えてきましたな」
蜂須賀も酒はかなりいける。しかしだ。
信長の家臣になり茶の味も知った。そのうえでの言葉だった。
「いや、面白い時代になってきましたな」
「そうであろう。これからよりじゃ」
「面白くなりますか」
「なる。わしがそうする」
確かな笑みを浮かべてだ。信長は言い切ってみせる。
「この天下をより面白くするぞ」
「さすればそれがしは」
「乗るか」
「乗らせて頂きます」
蜂須賀もだ。確かな笑みで応えてだ。そうしてだった。
二人で茶を飲みだ。今はそれを楽しむのだった。
そのうえで信長は美濃に兵を進めようとする。しかしここでだ。その美濃で思わぬことが起こったのだった。
第五十四話 完
2011・8・19
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